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「雨よ降れ」  町の片隅で誰かが言う。 「雨よ降れ」  そのたびに紙袋は、手から手へと渡りゆく。 「雨よ降れ」  運ぶものは皆、口を利かぬ。 「雨よ降れ」  滝のように雨が降る。 「雨よ降れ」  それがひと月続く。 「雨よ降れ」  ふた月続く。 「雨よ降れ」  み月、よ月、いつ月……、 「雨よ降れ」  町も、人も、生き物も草木も、  何もかもを押し流してなお、 「雨よ降れ」  すべてがなくなっても、いまだ、 「雨よ降れ」  紙袋は――その中のものは――謳い続ける。 「雨よ降れ」
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