第一章 緑の瞳の少女

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二  装身具をじゃらじゃらさせて手を打つと、若い娘が書類をもって入ってきた。顔立ちからすると血縁ではないようだ。一通を机に置き、マダム・マリーがうなずいたのを確かめてからクロウにも渡した。記載は経歴巻布と違って帝国共通文字で、ローテンブレード家の紋が入っていた。 「護衛運送任務。宝物を山一つ隔てた飛び領地に移すので賊を近づけさせない。お分かり?」  娘が出ていくと、低い声で説明を始めた。荷馬車数台で輸送するとあるが、この書類の護衛運送任務はそのうちの一台に対してのものだった。 「車列を作らない? ばらばらで行く理由が分からんな」  つい聞いたが、言ってしまってからあっという顔をした。マダム・マリーはその表情の変化を見逃さなかった。 「するどいね。そのあたりは軍でむだ飯を食らってたってわけじゃなさそうだ。そう。宝といっても金銀じゃない。魔宝具さ。込められてる霊が反発するんで別々に運ばなきゃならない……って言う理屈。うち以外にも依頼はかかってる」 「そりゃ……、賊どころか鬼が寄って来る」 「おや、怖いのかい? やめてもいいんだよ」  クロウは書類の下の方の報酬を見た。三世が五枚。 「もちろん、一人じゃない。あんたは大砲役。ほかに肉切り包丁ふりまわせるのが三人。ならいいだろ?」  魔宝具の護衛としては最小限だろう。マダム・マリーは賭けが好きらしい。雇う人数をぎりぎりにして自分の儲けを最大にするつもりだ。しかし任務に失敗したら元も子もない。ローテンブレード家の依頼をしくじったらどうなることか。クロウはそのあたりは考えないようにする。考えたってしょうがない。 「やる。やらせてくれ」  マダム・マリーはにやっとした。 「三日後、市門のそばの積み下ろし場。書き付けはこれ。積み込みはやっといてくれる。中身についてはそいつらの年長がよく分かってるからあんたは知らなくていい。合流したらそのまま任務開始。終了は受け取りをもらって荷馬車を返してここに戻って来た時。報酬もその時渡す。分かった?」  クロウはうなずいた。 「報酬だが、一枚前渡しを。いろいろと準備がいる。それと、後の報酬は二世にできないか。二世なら三枚でいい」  吠えるような大笑い。マダム・マリーは机を叩き、短剣を抜いた。クロウも抜く。  二人は柄頭をかちっと合わせる。契約成立。マダム・マリーはクロウの刃に目を落とした。 「そいつ、研ぎ直しときな。前渡しで」
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