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そよかぜが歌をはこんでくる。
ららら、桃子ちゃんおはよう。
桃子も「おはよう」と返事をする。
今日はお天気がいい。お庭に出ると、ふかふかの苔が足の裏にぎゅっと踏まれる感触がする。
「ごめんね、痛かった?」
桃子が心配すると、
「全然。また遊びにきてくれてありがとう」
と笑ってくれる。
桃子が好きなのは庭に植わっている大きな松さんだ。
緑の葉っぱはちくちくと痛いけれど、どっしりと地面に植わっていて、幹は太くて、桃子を包んでくれるようだ。
「今日もよろしくね」
「もうすぐ会えなくなるのが悲しいな。でも、今日は思いっきり遊んでね。ほら、そこの石をひっくり返したらいい」
松さんが低い声で語りかける。
「うんしょ、よっ、と」
桃子は全身の力を使ってブロック状の石を半回転させた。
突然眠りを邪魔されたミミズさんが急いで地面に潜る。くねくねとしっぽが揺れる。黒いだんご虫がくるりと丸くなる。
「松さん、これからもずっと友達だよね」
桃子はちょっと不安になって大きな樹にたずねる。
「僕たちはいつでも桃子の友達だよ。でもね、桃子、僕たちの声が聞こえるのは子供のうちなんだ。君はこれから旅に出る。みんなが旅に出るんだ。君はその旅で自分を見つけなきゃいけないよ」
桃子には意味が分からない。
「ももちゃーん、オレンジジュース飲みたいよね」
ママが玄関から声を張り上げている。
桃子は急に喉がかわいた。
「飲みたい。すぐ行くっ」
たっ、とママのところへ駆け出していった。
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