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「私もう小学校6年なんだからちゃんとしたワンピースが欲しい」
桃子はお母さんがネットで注文した子供服に文句を言った。お母さんが買う服はいつも安物で、一年も前に流行したものだ。今ではすっかり時代遅れ。
「仕方ないでしょう。安かったんだし。桃子は美人だから何着ても似合うわよ」
お母さんは注文したガーリー系だと思われる緑の服をたたんで、桃子に渡した。
親に美人と言われてもあんまり嬉しくない。
親友の美香子ちゃんや愛子ちゃんに「桃子ちゃんってスタイルいい。身長高くてうらやましい」と褒められると胸がじん、とするほど嬉しいのに。
桃子はお母さんから買ってもらった服を仕方なく持って、2階の自室へ入った。窓からは庭の大きな松が見える。大昔、この木の陰で遊んだ記憶はあるが、もうおぼろげだ。
何でウチは何もかもが和風なんだろう。美香子ちゃんの家は真っ白な洋風だ。花壇には季節に合わせてチューリップやすみれが咲く。うらやましいなあ。
畳間に足を投げ出して、桃子はぼんやりと鏡を見た。学校に着ていってもバカにされないように、今日中にこのダサイ服が何とかまともになるようにコーディネートを整えなければいけない。
桃子は桐のタンスを開けた。中には大好きな歌手のブルーレイとアクセサリーの小物が入っている。シックな革の時計が目に付いた。去年、おじいちゃんがくれたものだ。
お父さんが「売れば3万円はするものだ。大切にしなさい」と小言を言った逸品だ。古風な革時計と合わせれば、多少見栄えは良くなるかもしれない。
桃子は気分が良くなり、今日の夕食は何だろうなと考えながら座布団に寝ころびテレビをつけた。
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