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看護師職も3年をむかえ、桃子は気持ちにゆとりが生まれた。通勤中、車がエンジントラブルに見舞われた。助けてくれたのは、端正な顔立ちの男性だった。偶然にも、彼は桃子と同じ総合病院勤務の理学療法士だった。
桃子の心に何かが芽生えた。
それが恋だということに初めて気づいた。
理学療法士の一成と、勤務の間を縫って遊園地や、キャンプや、夜のレストランに出かけた。
「その時計、綺麗だね」
二人っきり、ホテルのディナーの席で、一成に祖父の形見を褒められた。
「男の人って、時計好きよね」
「僕は君の方が好きだ」
「え」
突然の告白だった。
一成は鞄からきらりと輝くダイヤモンドの指輪を差し出した。
一成との婚約は、桃子の父も母も大賛成してくれた。若くて誠実、給与もいい。庭の松がそよと揺らぐ。お前も賛成してくれるのかい、と桃子は思った。
結婚式は盛大にとり行われた。
二人とも医療職なので、参列者は医療関係が多い。ちょっとした懇親会のようだった。
久しぶりに美香子ちゃんと愛子ちゃんに再会した。親友は銀行と商社へ就職していた。二人とも立派な社会人だ。話題は仕事のことよりも子供の頃の話ばかりであった。
桃子は白無垢を着て、庭の松の前で集合写真を撮った。
たったの一日。
だけど、それは桃子の人生で最高の、忘れられない一日となった。
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