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「ほぎゃあ」  やっと産まれた。桃子は陣痛に耐えた疲れの中、愛しい我が子を胸に抱いた。腕も指も細くて、やわらかい。お腹の中で元気に桃子を蹴った子だ。きっと丈夫に成長するに違いない。 「がんばったな、桃子」 「一成」  一成が桃子の頬を一撫でして、恐る恐る赤ちゃんに触れた。 「あったかい。新生児って、いいな」  顔をほころばせる。 「男の子だって。一成、名前考えてあるんでしょ?」 「ああ。色々と迷ったけれど、やっぱりシンプルで分かりやすい名前にしたよ」  一成はポケットからメモ用紙を大事そうに取り出した。 『(みち)』 「この子がどんな人生を送るのか想像つかないけどさ、自分の行きたい方向に全力でむかえるような名前にしたかったんだ」 「いい名前。一成らしい」  道を出産した5日後、桃子は退院した。  父も母も大喜びで孫を抱き上げ、優しく頭を撫でた。  桃子は久しぶりに、祖父の形見の時計を腕に巻いた。祖父が買った時に加え27年、しっかりと時を刻んでいた。  一成は良い父親となった。桃子は座学や体験談で子育てのコツはつかんだつもりだったが、実際にやると上手くいかない日もあり疲れた。そんな日は、一成は積極的に休みをとり、桃子をサポートしてくれた。
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