カオスな歌姫

2/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 そしてこのシンデレラストーリーを語るうえで何より特徴的なのは、HANAが顔出しをしないアーティストだったということだ。CDジャケットはイラストや風景の写真が使われ、テレビや動画サイトに出演することもなく、本人の顔が公に出たことはない。純粋に歌の魅力だけで今の地位を得たというわけだ。そんな中、満を持しての年末歌合戦出演。初めて彼女の姿が明らかになるとあって、人々の期待は否が応でも高まっていた。  午後7時、番組が始まった。若手からベテラン演歌歌手まで、1年を振り返るコメントをし、それぞれの出番を終えていく。後半にさしかかり、新年へのカウントダウンも見えてきた頃。いよいよ、ネットも、お茶の間も、ざわつく時がやってきた。 「さあ、みなさんお待ちかね、今をときめくHANAさんのテレビ初歌唱です! どうぞ!」  司会者が意気揚々とHANAを紹介し、カメラはステージを映し出した。暗闇の中に、人影。次の瞬間、パッとスポットライトがついた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!