第一章 さくらは高嶺の花

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 と言うのも、さくらは私情を仕事に持ち込むきらいのある、いわゆるお(つぼね)(さま)の方が苦手だったのだ。先程、出社したてのさくらを見て(うわさ)(ばなし)をしていたのも、このお(つぼね)(さま)たちである。  さくらは(うわさ)(ばなし)ばかりで仕事もろくにできず、勤続年数だけで大きな顔をしているこのお局様たちのことを、内心、小馬鹿にしている節があった。 (まぁ、私は実力で黙らせればいいか)  さくらはそう思いながら、黙々と仕事に打ち込んでいるのだった。  そんなさくらに声をかけてきた上司は、さくらについてくるよう目配せすると、オフィスの奥にある個室へと向かった。さくらもその背中を追って席を立った。 「前田くん、すまんな」 「どうしたんですか?」 「実はな……」  上司は少し気まずそうに口を開いた。内容は、今日初出勤の予定だった例の新入社員についてだった。さくらは少しイヤな予感を覚えながら上司が先を続けるのを待つ。 「辞めたよ」 「は?」  思ってもみなかった言葉に、さくらは思わず上司に向けて出す声ではない声で反応してしまった。しかし上司はそんなさくらに嫌な顔をせず、 「新入社員、辞めた」  そう繰り返した。 「理由は、聞いてもいいんでしょうか?」
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