明日は体育祭

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明日は体育祭

「はぁ…。」  もう何回ため息をついただろうか。図書室に飾られたカレンダーを見て私は掃除用のモップを動かすのをやめた。  明日は私が通う中学校の体育祭だ。私は運動が苦手なのでこのイベントが大嫌いである。  日焼け止めと汗で肌がべとべとになるし、疲れるし、スタートを告げるピストルは怖いし、なにより足が遅いことでクラスメイトからあれこれ言われるのが苦痛だ。 「明日、お絵描き大会とかになったりしないかなぁ…お絵描きなら自信があるんだけど。」  そう呟きながらひとり、モップを手に持って昼休みの掃除を再開する。校内では聞きなれた軽快な掃除の音楽が流れており、明るいポップスのメロディが憂鬱な自分の気持ちを逆撫でしてくる。 「俺はいやだな。」 「うわ!?」  突然、近くの本棚の裏から声がして私の背中に電流が走った。 「だ、誰…?」 そう言って恐る恐る声の本棚へ行くと、クラスメイトの青木くんが図鑑を読んでいた。 「ああ、相沢さんか、おつかれさん。」  青木君は一瞬だけ私の顔を見ると、すぐ図鑑に視線を移した。 「青木君、掃除は?」 「今日はやらなくていいって言われた。」 「なんでここにいるの?」 「暇だから、それより相沢さん、俺に気づくまでずっとため息ついてたけどどうしたの?」 「あ…い、いや〜、明日の体育祭が嫌だなぁって思って。」 「?、なんで?楽しいじゃん。」  その言葉を聞いて、私は彼が自分と同じような人物ではないことを確信した。 「私は楽しいと思えないんだよ、足遅いし、みんなに迷惑かけてばっかりだから。」 「ええ、そんなこと気にしなくていいのに。」 「…でも。」  青木君が気にしなくても、ほかの子は気にするかもよ。と言いそうになった自分を、私はぐっと、心の中でおさえこんだ。その代わりに私は口を閉じた。青木君は運動が得意で、成績も優秀なことからクラスの中ではリーダー的存在になっている。尊敬や、頼りにしてくれるクラスメイトが陰で足手まといで地味な私をよく思わず、隙あらばチクチクと気遣いに見せかけた嫌味を言ってくるなんて知りたくないだろう。 「ううん、なんでもない。」  私がそう言うと、青木君は図鑑を閉じて本棚に戻した。 「そうなんだ、じゃあもし雨になったらなにするの?」  読書をやめた青木くんは、掃除用ロッカーの中から、箒とちりとりを持ってきてくれた。私はあれ?まだこの話続けるんだ、と内心で驚きながら、ちりとりをうけとる。 「うーん…ゲームかな、ポスモンに最近はまってて。」 「えっ?相沢さんポスモンしてんの?意外。」 「え、そうかな?」 「うん、めっちゃ意外、どこまでやってる?」 「一応、第二ステージまでやった。」 「そうなんだ、レアモンスターがゲットできるイベントは?」 「それはやってないかな、確か、二人以上じゃないとできなかったはずだから…あ、掃除手伝ってくれてありがとう、ごみ捨ててくるね。」  私は弾んでいた話を中断し、青木君が箒で集めて入れてくれたごみが入ったちりとりを持ってゴミ箱に行く。そしてゴミ箱の中にごみを入れ、そのまま掃除道具を片付ける。 「よし、時間もちょうどいいくらいだし教室にもどろっか。」 「あのさ」 「ん?」  電気を消そうとする私をとめるように、青木君が被せ気味に話しかけてきた。 「どうしたの?」 「明日、もし雨が降って体育祭が中止になったら、俺と通信でポスモンのイベントする?」 「えっ?」  驚いた私に対して、青木くんはなぜか黙っていた。 「嫌ですか?」 「え、いや…いやじゃないけど、なぜ敬語?」 「なんとなく。」  …なんとなくってなに? 陽キャの間では突然敬語になるのが流行ってるのか?と思いながらとりあえず私は了承の返事をする。 「青木君が良ければ別にいいよ、私、ゲームの友達いないし、初心者だから助かる。」 「おっけー、じゃあLIMEで」 「ごめん私携帯持ってない。」 「あ、そうなんだ、じゃあユーザー名書いたメモをあとで渡すね。」 「ありがとう。」  掃除の時間がもうそろそろ終わりそうだったので早口でそう返すと、私は図書室の電気を消し、鍵を閉めた。 「じゃあ職員室に鍵返して、教室にもどろっか。」 「うん。」  …明日、本当に雨が降ればいいのになぁ。 初めて複数人でゲームをすることに少し胸を高鳴らせながら、私は青木君に迷惑をかけないようにレベル上げをしようと決心した。      
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