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1.明日海
南向きの窓には、ブラインドが掛かっていて、羽根の僅かな隙間から暖かな日差しが漏れている。
梅雨の止み間の貴重な天気にもかかわらず、ブラインドを全開にしないのは、開けたところで大した景色が見えないからだろう。
きっと、この向こうは、一面、薄汚れたコンクリートの壁なのだ。
勝木智也は、リクライニング機能が無い椅子にもかかわらず、まるで、それであるかのように、横柄な座り方をして、見えない窓の外を想像していた。
「勝木さん? 聞いておられましたか? 質問に答えてください」
勝木は、机を挟んで、三人の刑務官から質問攻めにあっていた。勝木自身、この日は何人かの受刑者を面接するだけだと思って来たのだが、その前に、この会議室に連れて来られたのである。
もしかしたらと予想できたとは言え、まるで何かの容疑者であるかのような扱いを受け、気分が悪い。
「だから、更生を兼ねて、住む家も、働く場所も、私が提供するんですよ。ちゃんと、死ぬまで面倒を見ますから、安心してくださいよ」
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