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人気はないし、賞を取ることもないし、それなりの創作生活を楽しんでいた。最初の衝撃は小説投稿サイトをはじめてから一年あたりだっただろう。
僕の最初のフォロワーさん。難病と戦いつつ、人気作を連載していた方だ。ある日『もっと書きたい!』とタイムラインに綴った。病状がよくないのだろうか? 彼は僕の小説にはじめて誤字報告をしてくれた人。彼がいたから読み直しをするようになった。それほど深い関係ではなかったが、気にはなっていた。そして彼の更新は途絶えた。
心配ではあったができることは何もなく、その数カ月後、タイムラインに彼のアカウントの投稿が載る。
『母です。息子は天に旅立ちました。最後まで書きたいと訴えていました』
それを見たとき、何かが壊れるような感覚に陥った。僕は死の縁にあってもっと書きたいと思えるだろうか? 悲しくはあるが、何がなんでも書かなきゃと強く思った。あれだけの才能でも死には抗えない。僕は才能なんかない。もっともっと書かなきゃ。でなきゃあちらに行ったときに顔向けできない……。そう思ったものだ。
生活の最優先は執筆。僕は執筆するために仕事しているんだよとよく嘯いていた。事実そうだ。創作活動をしていなければ僕はきっとつまらない人生を歩んでいただろうとの自覚がある。
自らイベントを開いて、集まった作品にレビューを書く。新作はこまめに。なかなか長編は進められないけれど短編の数はどんどん増える。
なかなか評価がもらえないなぁと思っている中、僕は突然に受賞する。その通知が着た瞬間、知らない人からのコメントが山ほど来てレビューもどんどんついた。
作品に関しては毎回気合いを入れているが、その作品は受賞するまで閲覧数ゼロの作品だった。驚かずにはいられなかったが、自信と確信が僕の中に根付いた。僕でも評価は得られることがあるんだ。閲覧数ゼロでも評価されることがあるんだ。
読者に迎合する必要はない。書きたいものを書くんだ。それから数年はコンテストの入選常連と言われた。そんなのはずっと続かないけど。
コンテストで受賞すると仲間も増えていく。怖ろしいことに、その仲間たちもコンテスト入選常連ばかりだから、僕の気合いの入りようも違った。
コンテスト入選常連者はイベントを行うのが好きな人もいて、そこに参加してまた仲間を増やす。
読まれる。読む。レビューする。レビューされる。入選する。落選する。励まし合う。その繰り返しが途轍もなく楽しかった。
楽しんで創作している中、またショッキングな出来事が起こる。
『あの方、もうここ辞めるって言うんです!』
聞いた瞬間、手が動いた。あなたには才能があるんだ。僕とは違うんだ。絶対書き続けるべきだ。
そんな話をしたのは、僕だけじゃなかった。
イヤだイヤだ絶対イヤだ。いなくなっちゃイヤだ!
そう思ってコメントしても、彼はいなくなってしまった。数日、無力感に苛まれた。
それでも僕にできるのは書くことだけ。正直に言おう。僕に書く以外に取り柄はない。資格がある訳でも特技がある訳でもない。胸を張って言えるのは人生のほとんどを小説を書くことに費やしてきただけだ。そんなのだから生活の最優先事項が書くことになるんだ。
黙って次々と作品をアップする。その中でもやはり変化というのはあって、一人また一人と同時期にコンテスト入選常連と言われた仲間たちは少しずつ書かなくなったり去っていったりする。
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