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15.その雨がこの街にも
カルゴは隣の紫陽花に降る雨をうらやましそうに眺める。やがてその雨がこの街にも降ればいいのに、と。
そんな願望は紫陽花の葉の上のカタツムリやナメクジたちも同じ。誰もが昼間の日差しに身体をじりじりとあぶられ、身体から水分を失っている。いま必要なのは全面戦争よりも恵みの雨。
そんな願いが届いたのか、雨が街へと近づいてくる。カタツムリやナメクジたちも、もはや目の前の敵ではなく、雨粒が自分の体を潤すことを望んでいる。今すぐにでも雨よ降れと。
そしていよいよ雨が街に潤いをもたらそうとしたその瞬間。
雨はぴたりと動きを止め、大きな叫び声が夕闇の紫陽花に響いた。紫陽花の葉の上にいる大量のカタツムリやナメクジたちの姿を目撃した人間の悲鳴だった。
雨は突然失われた。それでも地面からは水の匂いが立ち上っている。誰もが本能的に水を求め、地面へ降りようと紫陽花の茎を降りはじめようとしていた。
そのとき、一度は逃げていった人間が戻ってくる。そしてカタツムリやナメクジたちへ向かって塩を撒きはじめた。紫陽花の茎や葉にいるカタツムリやナメクジたちの上に降ってくる大量の塩。
ただでさえ身体から水分が失われているのに、塩を浴びたカタツムリやナメクジたちの身体からは残り少ない水分が抜け出てゆくばかり。カタツムリやナメクジたちは全員がたちまち干からびてしまう。跡形も残らないくらいに。
(おわり)
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