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ベランダに通じる窓を開けると、雨音が一層大きく聞こえた。湿度は高いが気温は低い。快適なような不快なような、何とも言えない肌触りの外気だ。
各々サンダルとスニーカーを履いて、眼前に広がる大雨の風景に向き合う。空から地面に向けて長く透明な線を描くように、大量の水が絶え間なく垂直に落下している。屋根や地面に当たってはパタパタと派手に砕けて、周囲の音をすべて吸い込んでいく。
「うわ、すっご……!」
「うん……」
そう言葉を交わしたきり、私たちは少しの間、静かに大雨を眺めた。
真剣に雨粒を見つめる舞衣ちゃんにちらりと視線を向けて、思う。
私は今日の出来事をずっと覚えているだろうけれど、彼女は大きくなったら、きっと忘れちゃうんだろうなって。
それでいいと思った。
私のことはとっとと忘れて、互いに愛し愛される人を「居場所」にしてほしいと思った。
だけどそれは、ずっと先の話になるだろう。
だから、今は、雨よ降れ。
この子の母親を、水の檻の中に閉じ込めてしまえ。
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