箱庭ガールズ

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 舞衣ちゃんは小学六年生で、マンションの同じ階に母親と二人で住んでいる。私が五◯一号室で、彼女が五◯五号室。端と端だ。  正直言って、それ以上の関係性はない。特にご近所同士の交流もないため、私と舞衣ちゃんは赤の他人だと言ってよいだろう。  そんな彼女が時々、一人暮らしの私の部屋に遊びに来るようになって、もう四ヶ月ほどが経つ。  ドアを開けると、いつも通り舞衣ちゃんはハキハキとした口調で挨拶した。 「こんにちは、お姉ちゃん! お邪魔します!」  綺麗なお辞儀付き。礼儀正しいのはいいんだけど、まずは私の都合を聞くのが先ではないだろうか。いっつもそう思うけれど、幼さと礼儀正しさの押し売りに負けて、私は毎回彼女を部屋に入れてしまうのだった。  舞衣ちゃんはキッチンに入って手を洗うと、勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けた。私が彼女用に買っておいた、五百ミリリットルのペットボトルのジュースを取り出す。ショルダーバッグの中から、人気ショコラトリーの季節限定チョコレートを引っ張り上げて、ともにベッド前のローテーブルへと置いた。 「これ、使ってもいい?」  テーブルの上のノートPCを指差して尋ねると、私の了承を得た次の瞬間にはディスプレイを開いている。そうして、我が部屋のWi-Fiを使って動画やサイトを堪能する、というのが舞衣ちゃんのいつもの過ごし方だ。  私も彼女に構うことなく、勝手に自分の好きなことをしている。  そしてたまに、思い出したように互いの近況などを会話するのだ。  舞衣ちゃんの教育には色々とよくないのかもしれないけれど、こんな適度な距離感がベストなのだと、私は今までの交流で理解していた。
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