箱庭ガールズ

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 私と舞衣ちゃんが知り合ったのは、四ヶ月ほど前の夜のこと。  仕事帰りにマンションのエントランスに入ろうとしたら、部屋の鍵を失くして困っている彼女を見つけたのだ。  外廊下やエレベーターで挨拶をしたことがあったので、私は舞衣ちゃんが同じ階に住んでいる子だとすぐに分かった。  大人としては、見過ごすわけにもいかない事態だ。私は彼女に声をかけ、一緒に鍵を探した。しかし、どうしても見つからなかったので、母親が仕事から帰ってくるまでの間、一旦、自分の部屋に上げたのだった。  鍵は無事に見つかったようで、後日、親子ともどもお礼にやってきた。私はキリッとした印象の母親から東京銘菓を受け取りながら、たまには人助けもいいもんだ、なぁんて呑気に考えていた。  まさかその時には、舞衣ちゃんにものすごく懐かれていただなんて、予想もしていなかったんだ。  その出来事がきっかけで、舞衣ちゃんはたまに私の部屋を訪れるようになった。ペースにして、二週間に一回くらい。  勿論、始めは私も戸惑った。彼女との関係は、あれきりだと思っていたから。  でも、舞衣ちゃんに「お姉ちゃんは優しいから、一緒にいたくなるんだ~」と殺し文句を吐かれ、母親に「舞衣がご迷惑をおかけして、ごめんなさい。私があの子を寂しがらせているのが、いけないんですよね……」とため息を吐かれてしまえば、こちらとしては、もう、好きにしてくださいって感じだ。せめてものお詫びにか、舞衣ちゃんはいつも母親に渡されたであろう高級スイーツを持参するので、取りあえずはそれを楽しみにしている。
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