箱庭ガールズ

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「ねえ、お姉ちゃん」  動画に飽きたのか、舞衣ちゃんが伸びをしながら背後のクッションに身を預けた。 「何?」  ベッドに戻り、スマホの漫画アプリに熱中していた私は、顔を彼女の方に向ける。 「最近どう? 彼氏とかできた?」  雑な質問に、私はプッと吹き出した。 「君は親戚のおじさんかい?」  そう聞くと、舞衣ちゃんもクスクスと笑った。 「彼氏はできませんねぇ」  のんびりと答えると、彼女ものんびりと、だけどしっかりとアドバイスする。 「へぇ~。出会いないの? 今は自分から動かないと、結婚できないよ?」 「えっ、ちょっとやめて。舞衣ちゃん、本当に親戚のおじさんと同じこと言ってる!」  苦笑する私を見て、舞衣ちゃんはキャッキャと楽しそうな声を上げた。彼女は私が恋愛・結婚ネタを嫌がるのを知っていて、面白がってこの話題を出してくるのだ。困ったものだ。  舞衣ちゃんが我が家に来た最初の頃、私は「良いお姉さん」を必死に演じていた。彼女は孤独を感じていて、だから、大人からの親愛の情が必要なんだって、勝手に思い込んでいたのだ。  しかし、積極的に舞衣ちゃんに話しかけ、彼女の好みと悩みを知ろうとする中で、ふと、「この子って、そういうのは求めていないのかも」と気付いた。舞衣ちゃんのリアクションが、そこまで芳しくなかったからだ。それよりも、彼女は自分がしたいことをして、何となく話したい気分になった時だけ、私と会話したいみたいだった。  ようするに、舞衣ちゃんにとって我が家は、行きつけのカフェや居酒屋みたいなものなんだな、と思う。自宅とも、職場や学校とも違う場所。頑張る必要がなくてリラックスできるけれど、適度に人目があるからダラダラもしない。店員や周りのお客さんとちょっと会話して、でも深くは立ち入らない。  大人にはそんなゆるい逃げ場があるけれど、小学生の舞衣ちゃんには、主体性を求められる居場所しかない。学校、学習塾、習い事のキッズチアリーディング。だからこそ、ぼんやりさせてくれる空間と人が必要なのだろう。  そのことが分かってからは、随分と気が楽になった。今では大人ぶるのはやめて、素の自分で接するようにしている。残念ながら私は、「良いお姉さん」にはなれないようだし……。そんな感じで、現在の交流スタイルが確立したのだった。
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