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舞衣ちゃんの恋愛指南は止まらない。
「あのね、ママもね、お見合いパーティーでパパと出会ったんだよ」
失敗例を出されてもな、と思う。舞衣ちゃんのご両親は離婚しているのだ。ただ、幼い子ども相手にそのことを指摘するほど、私もバカじゃない。
「そうなんだ。舞衣ちゃんは、好きな男の子はいるの?」
問い返してみると、彼女は気まずそうな顔になって言った。
「ん、いない……」
「そっか」
「うん。彼氏は欲しいんだけどね、何かさ、男子って皆、子どもっぽくってさ」
「なるほどね」
小六なら、年上の先輩に憧れる機会もないからなぁ。
舞衣ちゃんが本音を見せてくれたのが嬉しかったので、私も正直に話すことにした。
「私はね、いるんだ。好きな人」
「えっ! そうなの? 誰? どんな人?」
テンション高く聞いてくる舞衣ちゃんに、私はちょっと照れくさい気持ちで話す。
「同じ職場の先輩だよ。優しい人」
「へぇ~、いいじゃん! 仲いいの?」
興味津々の彼女に、私は苦笑してみせた。
「う~ん、そんなに。仕事以外の話は、あんまりしないしね」
「えー! それじゃダメだってー!」
まるで自分のことかのように、舞衣ちゃんは真剣な口調で訴える。
「仲良くなりたいなら、自分から話しかけなきゃ!」
「あはは、そうだね」
「私だって、お姉ちゃんと仲良くなるために、家の鍵を失くしたフリしたんだから」
「……えぇっ!?」
いきなりの爆弾発言に、私は心底驚いて、大声を出した。
「えっ、舞衣ちゃん、あの日、鍵を失くしたっていうのは嘘だったの?」
思いっ切り動揺する私とは対照的に、舞衣ちゃんは涼しい顔で答える。
「うん。朝、エレベーター待ってる時にお姉ちゃんに会ったから、仕事の日だって分かってたし。夜、お姉ちゃんが近くの道を歩いてくるのをベランダで見てから、下に降りて、鍵失くしたフリしてたの」
「うわぁ……」
何と言ったら良いのやら。小学生に手玉に取られる二十五歳の私なのだった。
「でもさ、舞衣ちゃん、何でそんなに私と仲良くなりたかったの?」
兼ねてから疑問に思っていたことを聞いてみると、彼女は淡々とこう答えた。
「何でって、仲良くなりたかったから。それだけ」
聡明で、大胆で、とらえどころがない。
きっと舞衣ちゃんは将来、私なんかよりずっとハイレベルな女性になるだろう。そう確信した。
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