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2 過去の事故
「……っていうことがあったんだ」
城木が一通り話して聞かせると、三ツ谷徹は「ふうん」と面白そうな目をしながら見返してきた。
「城木君って、女性であれば人形相手でも優しいんだね」
「それって褒めてる? それともディスってる?」
「いやぁ、感心しているんだけど」
アハハ、と笑う三ツ谷。彼は神奈川県警科学捜査研究所の所員だ。城木と同年代で若いが、優秀でその情報収集力には誰もが一目置いている。
城木はたまに三ツ谷から情報を得て、捜査に活かしていた。今日は気になることがあり、仕事帰りによってみたのだ。
「気になるって、その『雨ふり少女』の都市伝説のこと?」
三ツ谷がテーブルに珈琲カップを2つ置きながら言った。
「ああ」と応え、いれて貰った珈琲を一口飲む。「俺は実際に歌声を聞いたような気がするんだけど……」
「あの地域は、たまに心霊スポットみたいな扱いされることもあるからね。それに、過去に大惨事もあったし……」
「え? 大惨事?」
「知らないのかい? まあ、60年以上も前のことだからなぁ」
そう言いながら、三ツ谷はパソコンを操作した。そしてモニターをこちらに向ける。
そこには「横浜の貨物駅にて化学薬品に引火。大爆発。死者15名 重軽傷者32名」というタイトルの新聞記事が映っていた。
「こんな事があったのか……」
思わず溜息を漏らす城木。
「当時はものすごいニュースになった……って言っても、僕も生まれるずっと前だから、こうやってデータで見ただけなんだけどね」
廃線となるずっと前、高度成長期のまっただ中、あの駅は横浜市内や川崎の工場地帯へ化学燃料等を運ぶ際の中間地点として、活発に人や物資が行き交っていた。
ある日、その駅でイベントを行うことになった。日頃大型車両が頻繁に行き来したり、危険な薬品類も通過するため、近隣に住む人達にとっては迷惑なこともあっただろう。その地域感情を少しでも緩和するために企画されたようだ。
しかし、それが裏目に出た。
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