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3 不正
科学捜査研究所を後にし帰路に就く城木。途中、スマホが鳴ったので出ると、今日当直となっている丘野からだった。
「妙な案配になってきたよ」
声に怒りと困惑が混じっていた。
「永山のことか?」
「ああ。あいつ、証言を覆しやがった……」
永山は、あの後署で多くのことを話した。芸能事務所のことも認めたのだが、それ以上に大きな事をやろうとしていたのだ。
ある製薬会社の不正だ。新薬認可のために一部政治家や官僚へ多額の資金が流れたという。その証拠を掴んだ彼は、脅迫にかかった。相手方がいったん了承したらしく、証拠となるデータと金の取引を、あの西倉庫前駅近辺の倉庫跡ですることになっていた。
だがそれは罠だった。相手方は、永山を始末しにかかった。城木達はその場に居合わせたわけだ。
取り調べの際、データはメモリーカードに入れたが、逃げる時に落としたと言っていた。後日港西署員でそれを探すことになっていたのだが……。
「製薬会社の不正は全部嘘だ、って言い始めたのか?」
「そうなんだ。弁護士が現れてな」舌打ちしながら話す丘野。「しかもその弁護士、どうやら永山が強請ろうとしていた製薬会社の顧問らしい。おそらく、接見の時に何らかの取引が行われたんだ」
弁護士は、芸能事務所恐喝については永山を無料で弁護するとでも申し出たのだろう。そして、製薬会社の不正に関するデータを渡せば今回のことは不問にし、命を狙うことはないとそそのかし、黙らせた……そんなところか?
「車で襲われたことも、たぶん暴走族かなんかだろう、とかぬかし始めた。製薬会社関連については、白紙に戻すことになったよ」
永山が落としたという証拠データが見つかったら、県警の捜査2課へと引き継ぐ予定だった。そうなれば、政界や財界も巻き込んだ大事件となっていただろう。それが今、振り出しに戻ったわけだ。
くそっ!
舌打ちをすると、城木は電話を切る。
帰宅するつもりだったが、足はあの廃線駅跡地へと向かっていた。
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