北野天満宮〜修学旅行2日目〜

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北野天満宮〜修学旅行2日目〜

修学旅行の二日目、班ごとに京都を巡り、私達は北野天満宮(きたのてんまんぐう)に行った。  杏佳(きょうか)のいる斑のメンバーは、  妹の楓佳、杏佳の許嫁(いいなずけ)陽緒(ひお)、幼馴染の愛茉(えま)、陽緒の幼馴染の涼星(りょうせい)、御巫家と同じく召喚者を多く輩出している鳳凰(ほうおう)家の悠翔(はると)の六人だ。  北野天満宮を参拝して次の場所に行こうとしたら、ミーハーな愛茉が私にスマホの画面を見せて、 「これ、ここの御朱印帳(ごしゅいんちょう)。御朱印、流行(はや)ってるらしいよ。」 親友の言うことに興味をつい持ってしまい、杏佳は愛茉に着いて行った。  そのやり取りを北野天満宮の屋根からが見ていた。  "ほーう。あの者に朱印巫女(しゅいんのみこ)を継がせると言うたのか。(ふじ)はあの膨大な霊力をよく封印したなあ。あとは、記憶力も申し分ないようだ。"  はぁ、言われるがままに買ってしまった…!  でも、ここに祀られているのは、学問の神・菅原道真だから、何かいいことがあるかもしれない。それに、参拝した記録にもなる。  …ん?何か違和感。楓ちゃんも何か感じてるみたいだから気のせいではないか。  ––––プツン…  何かが切断される音がした。たぶん杏ちゃんの方から。  これは何の気配だ?  人?いや、霊?いや違う、人の霊の式神だ。私でも感じたことがないくらい強い。強くても気配が出ている範囲は狭い。大きさは… 「文庫本サイズ…」  声が出てしまったように楓佳が声を発した。 「え?」 あまり顔に感情が出ない杏佳でさえも間抜けた声を出してしまった。 「何が?」 何がなんだか分かっていない愛茉が 楓佳ではなく杏佳に聞いた。 「えっと…なんか、御朱印いただいたときくらいから、よくわからないけどの気配がして。あとはよくわからないから楓ちゃんに聞いて。」 「へい?あ、あははははい‼︎」 急に話を振られたのと元々驚いていた楓佳は声がいつもよりワントーンくらい高くなっている。えーっと… 「御朱印をいただいて、少し経ってから、なんか…えっと、封印が解けたようながして、杏佳の馬鹿でかい霊力が解放されて、」 ここまで話したところで、霊力を感じられる陽緒、悠翔の二人は縦に首をぶんぶん振った。 「その後文庫本サイズの何かに杏佳(きょうか)の霊力が宿って、それがなんだろか?って思って…  …ちょっと人いない(とこ)行こっか。」  北野天満宮から離れて、ここは人間が入って良いのでしょうか?と言いたいくらいの所に行った。  杏佳は荷物の中から文庫本サイズの物を探した。  それらしい物は北野天満宮でいただいた御朱印帳くらいか。御朱印帳か…  気付いてないだろうな。杏佳ちゃんが朱印巫女(しゅいんのみこ)だってこと。だって(ふじ)さんと涼星(おれ)しか知らない。  涼星(りょうせい)は二つ、隠し事をしていた。一つは杏佳の才能(術式)。もう一つは涼星が他人の術式を見ることができる『視者(ししゃ)』であること。杏佳の術はどうせすぐバレるから二つ目は明かすつもりもないらしい。  涼星がそんなことを考えている中で杏佳は楓佳に御朱印帳を渡した。 「式守(しきもり)」  そう楓佳が術式名を呟くと御朱印帳を持っていない右手で冷気を溜めて霊力の宿っている御朱印帳にかざした。  ––––はい?えっと…どういうことでしょうか。  というのも、杏佳の御朱印帳から楓佳の式守の力で昔の人(にんげん)が出てきたのだ。 「えっと…あなた…誰?」  えーっと、なんか見覚えあるなぁこの人。誰だったっけなぁ。歴史の教科書で見たことある。なんか頭良さそう。てか御朱印帳から出てきたよね、この人。あれ待って。御朱印帳から出てきたよな。で今ある御朱印は北野天満宮だけだから… 「あのー菅原道真さんですね?」 『ほう。よく分かったな。』  は?この式神(ひと)喋った?まぁ元々人だから喋るか。 喋った式神に対して陽緒(ひお)が質問をした。 「道真(みちざね)さん。」 『なんだ。』 「杏佳(きょうか)の御朱印帳から貴方が出てきたということは、杏佳が朱印巫(しゅいんのふ)を持つ、ということですよね。なんでこんなことが今まで一度もなかったのでしょうか?」 悠翔(はると)愛茉(えま)楓佳(ふうか)、杏佳は、確かに。と思ったが、涼星(りょうせい)は渋い顔をしていた。まぁ、視者(ししゃ)のことはばらされたくないだろう。今まで誰にも言ってないのだから。  そんなことはお構いなしに、道真は涼星に話を振った。 『確かそなた…涼星は視者であったな。巫女の近くにいて、(ふじ)にこき扱われていただろう?全て知っているのではないか?』 「…チッ」  涼星さん、今舌打ちしましたね?神様に失礼です。 「わかったよ。朱印巫は数少ないほぼ無詠唱でできる召喚術だ。楓佳はほぼ無詠唱で式守を使ってたけどレアだから置いといて。朱印巫女が、持っている御朱印の御祭神を召喚できる術だ。あと、杏佳(お前)の霊力がないと思われていたのは藤さんが封印してたからだ。いつかは知らないけど。」  ここまで何も口出ししていなかった楓佳が涼星の話したことに驚愕して質問とも独り言とも言えない言葉を発した。 「涼星と(ばあ)が知り合い…?」  そう、“藤“とは杏佳、楓佳の祖母なのだ。 「婆が朱印巫女となんの関係が?」  今度はきちんと質問した。 『藤はな、杏佳(そなた)と同じ朱印巫女だったのだよ。涼星が杏佳の霊力を藤が封印したと言ったろう。それに伴って巫女としての能力も封印されていたのだ。だが霊力を封じることは易々と出来ぬ。どうしたと思う?』 「まさか…!」  悠翔には心当たりがあったのか絶句していた。でも他は知らないため、道真が説明した。  封印には沢山種類があり、より強い物を封印する術もあるが、稀に術者が、代償を払うことがあると言う。藤が使った術は杏佳の持つ霊力量が藤の持つ霊力量を超えた時、封印が解けるというものらしい。その代償として払われたのが–––命、寿命だった。  つまり、祖母は杏佳の封印が解けた時点でもうこの世にいないのである。 「そう…婆は死んでしまったのね。私のせいで。」  杏佳は案外すんなり受け入れた。が、やはり自分に施した封印のせいで死んでしまった罪悪感はあるようだ。 『そなた、泣かぬのだな。』 そりゃそう思うだろう。親同然なのだ、藤は。でも杏佳は泣くだけ無駄だと思っているらしい。 「泣いて婆が戻るのなら泣くさ。でも泣いたって婆は戻ってこない。だったら婆がくれたものを見て生きる。それが私の出来る婆への弔いさ。」 楓佳や陽緒など藤を知る人は涙を流す中、道真が全く別の話題に切り替えた。 『杏佳よ。御朱印帳を出してくれるか?』 唐突だなぁ。それにすぐに反応し、はい、と言って御朱印帳を渡す杏佳もすごいけど。 『我はそなたを気に入ったゆえ我の朱印をやろう。』 そう言って道真は北野天満宮の御朱印の空いているスペースに追加で何かを描いた。 「これは…万年筆?」 『ああ。神々が朱印巫女を認めたときその御朱印のぺーじに、その神の象徴となるものを書き入れるのだ。我は学問の神ゆえ筆なのだ。我らを呼びたいなら名を呼べば応じるぞ。』とのこと。 つまり道真は杏佳のことを朱印巫女として認める、ということだ。 『そなたら、次はどこへ行くのだ?』 この問いには愛茉が応じた。 「次は…晴明神社だけど、怨霊としての道真なら敵になるのでは?」 確かに、昔は怨霊騒ぎに出てくるのは陰陽師だ。だが道真が言うには、 『良い良い。神として祀られる同志、仲良くしようじゃないか。』 ということなので予定通り晴明神社に行った。
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