白峯神宮

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白峯神宮

 白峯神宮(しらみねじんぐう)は、サッカーなどの球技にご利益がある。だが、元々は崇徳(すとく)上皇、淳仁(じゅんにん)天皇の霊を慰めるために建てられた神社だ。  杏佳(きょうか)たちはそんな白峯神宮に陽緒(ひお)のサッカー部の大会で結果を出せるよう祈願するために来た。  杏佳は普段無表情(ポーカーフェイス)で怖いと思われがちだが、部活の大会のことも考えて予定を組める優しい子だ。本人に言うと「は?」と表情のない冷め切った声を出すが。  杏佳たち一行は摂社末社を全て参拝し、御朱印をいただく。季節限定御朱印をいただいた。普段は表情を変えない杏佳だが、その綺麗さにふっと表情を緩めた。すぐにいつもの無表情(ポーカーフェイス)に戻るが、特に陽緒と楓佳(ふうか)は見逃しておらず、また二人も表情を緩めた。  だが、ほのぼのした空気を愛茉(えま)がブチ壊す。 「ねぇ杏佳ぁ。摂社末社全部回るとか頭おかしいって。なんでそんな余裕(よゆー)そーな顔してんの、(あたし)疲れたんだけど~。」  愛茉はギャルのような見た目で家庭科部の部長をやっている。部活のことを考え過ぎて、全くと言っていいほど運動をしないので体力がない。なので愛茉が最初に足重モードになるのだ。  本殿を参拝した後、 「ねぇ杏佳。」  少し困ったような、申し訳ないような、難しい顔で陽緒が話しかけてきた。 「どした?」  と、杏佳にしては軽く返した。陽緒は裏腹に、 「なんか…神様本神(ほんにん)がいるっていう実感がないと…あの、お願いを聞いていただいた感じがしなくて…神様に会ったことがあるとね。」  と真剣に答えた。  読者の皆様にはこの感覚はわかる人もわからない人もいるだろう。  自分の目に見えないから、願いを本当に聞いてくれたのか、ちゃんと見えている状態でお願いしたい。ということを陽緒は言った。  ——私と陽緒の神に対する認識は違うみたい。神に何か言われたらでいいや。―― 「はぁ。サッカーだから…精大明神(せいだいみょうじん)ねぇ。じゃあ陽緒。精大明神が祀られているのは数ある摂社末社ののうちどこ?答えが合ってたら呼ぶ。」  だが陽緒はこの展開を知っていたようで、 「あぁ、杏佳はいつも通り意地悪なことするな。どっかでそんなことするだろうと思ってちゃんと覚えてるよ。」  地主社でしょ。と、おやつを待ちわびていた犬のように少し嬉しそうにかっこつけて答えた。  —――精大明神―――  地主社に祀られているかの蹴鞠(けまり)の守護神の名を、声に霊力を乗せて呟いた。(やり方は移動中しれっと晴明に教えてもらっている)  この場には晴明に結界を張ってもらって呼んだ精大明神は、蹴鞠装束を着て誰かが納めたであろうサッカーボールを持っていた。服と物の時代が合っていなくて、二人以外は軽く吹き出してしまう。無反応な杏佳と涼星がなんとなくすごいと思ってしまう。内心二人も笑ってはいないがツッコんでいた。 いや、あんたサッカーじゃなくて蹴鞠の守護神だろ。 なんてことを。 そして、一番分かりやすく噴き出していた陽緒は、正気になるのがはやい。 「あの、今日呼んでいただいた理由なのですが。」 『うんうんなになに?』 自分から話しかけておいてこんな事言うのは可笑しいが、さっき会った神(道真や晴明)は昔の喋り方みたいな、威厳のある喋り方だったからか、とても調子が狂う。 そんなことは此処では言わず、今年の総体で自分の学校に勝たせてほしい、とお願いしようとした。 だが、途中で、 「はぁーいはい。ちょっと待ったぁー」 楓佳が精大明神と目配せして頷き合い、陽緒の言葉を遮る。 『なんでも神に頼んじゃえっと思っているようだな。次期当主の婚約者。』 みんな思うことがあるようで、各々違う反応をしていた。多くが疑問符が浮かんでいるが、涼星は何か知っているようで、額に手を当て溜め息をついていた。
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