01-05

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「管理人……ですか?」 「うむ。きみから見て、人間界はどんな世界だったかね?」  男はくせのついた前髪をくるくると人差し指に絡ませながら考えた。それは本人も気が付いていないが、何度転生しても抜けることがない男の(くせ)であった。 「良い魂も沢山いますが、悪い魂はもっと沢山いました。『試練星』を増やすような事件ばかり起きていて……」 「左様。悪事を行なえば新たな『試練星』が与えられる。一生を終えるまでに『試練星』が十二個を超えていれば、次の転生では『修羅(しゅら)界』に堕界(だかい)じゃ。  今年度、人間界からの堕界(だかい)者は約六億八千万魂。それに引き替え『天界』への昇界(しょうかい)者はきみを入れても、たったの三千三百三十一魂……。(なげ)かわしいのう」  煉獄長は大きな溜め息をひとつついて続けた。 「その原因のひとつが、十層界(じっそうかい)の下層世界、つまり『修羅(しゅら)界』『畜生(ちくしょう)界』『餓鬼(がき)界』『地獄界』から不法に入界した『越界者(えっかいしゃ)』たちによる、犯罪や悪への誘惑じゃ。  彼らは魔界の王『天魔(てんま)』の配下である『魔鬼(まき)』どもによって人間界へ送り込まれ、同じく『魔鬼』からの指示を受けて人間界の秩序を乱し、魂を大量に堕界(だかい)させておる」  そこまで話して、煉獄長は沈黙した。 (人間界は、これからも大変だな……)  それが男の正直な感想だった。  しかし自分はもう『天界』へ行く身。関係のない世界の出来事。そんな思いが、どこか他人事のように感じさせていた。 「対岸の火事と見るかね?」  唐突(とうとつ)に再開された煉獄長の話に、男は再び背筋を正して耳を傾けた。 「人間界は、いまや魔界勢力の最前線。絶対に死守せねばならぬ最後の砦じゃ。しかしこのままの状態が続けば、人間界も、じき魔界側へ堕ちるだろう。するときみが次に行く『天界』が《善》と《悪》の境界線となり、実質の『人間界』となってしまう」  それを聞いて男は焦った。 「せっかく卒業した人間界を、またやり直しですか?」 「(つら)かろう? 一度でパスしたきみとはいえ、人間界は何かと堕ちやすい、誘惑に満ちた世界じゃからのう。誰かが人間界へ降りて善悪のバランスを(たも)たねばならんのだが……」 「それが『管理人』の仕事ですね」 「うむ。大事な任務じゃ。普通の者には任せられん。優秀な……そう、超エリートでないと務まらん仕事じゃ。それにのう、これは内緒なのだが……」  煉獄長は小さな声を、さらに小さくしてささやいた。 「たった一年、管理人を勤めれば、今後の出世にも手心が加わる……かも知れんのう」  出世とは俗っぽい誘惑だったが、男の心はぐらりと揺れた。  たった一年遠回りするだけで、その後の転生が有利になる。なにしろ『管理人』はエリートだけに(たく)される名誉な仕事らしい。  しかし男は、危険な仕事なら断ろうと思っていた。 「具体的に、何をするんですか?」  男が質問すると、 「ほう。その言葉、了解と取るぞ」  突然、男の足もとが、ばたんと開いた。 「ぎゃああああああぁぁぁ……」
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