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01-06
「ぎゃああああああぁぁぁ……」
男は真っ暗な穴の中を、真っ逆さまに落ちていった。
そのあとを煉獄長の声が追ってくる。
「きみの仕事は、魔界側の世界からやって来る越界者の確保じゃ。勤め先はきみが人間のときに過ごした街。そこでのきみの名前は『六道 輪廻』。詳しい仕事内容は前任者に聞きたまえ。がんばれよおおぉぉぉ……」
バキッ!
背中に激痛が走って目を覚ます。
起きがけの焦点の合わない視界に、ぼんやりと古めかしい和室の天井が映った。ぶら下がった電灯の明かりは消えている。
背中の痛みを堪えつつなんとか体を起こして、薄暗い部屋を見まわした。
「間違いない。ここは人間界だ……。またぼくは、人間界に来てしまったんだ……」
と、そのとき、視界の端に人影が映った。ふり向けば、驚いた顔でこちらを見つめる子どもがいる。小学生ぐらいの男の子だ。
「お、驚かせて、ごめん……」
そこまで言って気が付いた。男は古い化粧台の鏡に話しかけていた。
立ち上がり、くるりと回って笑顔をつくる。
寸分違わぬタイミングで、引きつった笑顔が鏡に映った。
「どういう……こと……?」
ふたつの小さな手のひらを見つめたとき、足もとでまっぷたつに割れているちゃぶ台の上に手紙を見つけた。
薄暗い部屋のなか明かりをつけるのも忘れて、新聞の折込み広告の裏に走り書きされた、その手紙を読んだ。
拝啓 後任者様
再び人間界へようこそ。御愁傷様です。
運悪く管理人に選ばれたぼくも、ようやく一年の勤めを終え、
これから煉獄に戻って『天界』へ転生です。
超楽しみ!
この日を指折り数えて、どれだけ待ったことか。
あなたを待ちきれずに旅立ったことをお許しください。
それにしても人間界は最悪です。
越界者、多すぎです。
せいぜい、がんばってください。 敬具
元人間界管理局日本支部担当管理人 四聖 進
追伸『管理人七つ道具』は、ちゃぶ台の下にまとめて置いておきます。
少年になった男は、しばし呆然とその手紙を見つめていた。
御愁傷様? 運悪く……?
理解できない言葉が頭の中を駆け巡る。
壊れたちゃぶ台を足でどけると、子どもの玩具のようなガラクタがいくつも出てきた。
「これが超エリートの仕事……。だまされたあああぁ!」
いまから一ヶ月前の出来事である。
メグルはちゃぶ台のひびを指でなぞりながら、また深い溜め息をついた。
窓の外はもう、うっすらと白み始めていた。
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