02-01:モグラのねぐら

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02-01:モグラのねぐら

 ぎらぎらと鬱陶(うっとう)しい眼差しの大陽が窓からのぞき込んでいる。メグルが蒸し風呂のごとく暑苦しい部屋で目を覚ましたのは、もう昼をずいぶん過ぎた頃だった。  寝ぼけ眼でカバンをまさぐり、中から『魔捕瓶(まほうびん)』を三つ取り出すと、ひびの入ったちゃぶ台の上に一列に並べた。  瓶の中には、いままでに捕らえた越界者(えっかいしゃ)がそれぞれ入っている。寝ている者、鋭くこちらを睨みつける者もいれば、瓶を揺らすほど大暴れしている者もいた。  寝ている者が入った『魔捕瓶(まほうびん)』をこつんと指で倒す。ごろごろと転がる瓶の中でリスのようにあわてて走りだす越界者(えっかいしゃ)の姿をぼんやりと眺めながら、メグルは大きなあくびをした。 「おはようさん。目は覚めたかい?」  取って付けたような爽やかな笑顔で挨拶すると、メグルはその瓶を列に戻し、 「おほん」とひとつ咳払いをしてから尊大(そんだい)な態度で話し始めた。 「越界者(えっかいしゃ)諸君! 煉獄(れんごく)長の許可なしに人間界へ入界することは、十層界(じっそうかい)の掟を破る重大な罪であります。よってきみたちは『魅惑の地獄界 罰めぐりツアー』の刑に処します!」  越界者(えっかいしゃ)たちを入れた瓶が、一斉に音をたてて震えだした。彼らのほとんどは、人間界のすぐ下にある『修羅(しゅら)界』や『畜生(ちくしょう)界』から来た者たちである。十層界(じっそうかい)の最下層『地獄界』は、彼らからしても想像を絶するほどに怖ろしい世界なのだ。 「しかし、わたしはとても寛容(かんよう)なのです。きみたちが人間界へやって来た入口を教えてくれれば、助けてやらないこともなくはありません」  震えるばかりだった越界者(えっかいしゃ)たちが、にわかに色めき立つ。瓶越しに一生懸命、身ぶり手ぶりで会話を始めたかと思うと、その中のひとりがメグルに向かって手を振り、きぃきぃと喚きだした。  あまりに小さな声なので、何を言っているのか聞き取れなかったメグルは、その瓶を持ち上げ、自分の耳に押し当てた。 「条件がある。人間界への入口を管理人に教えたことがバレれば、どっちにしろおれたちは魔鬼に八つ裂きにされて『地獄界』へ堕とされる。魔界の勢力が(およ)んでいない『天界』以上での生活を保障してくれれば、教えてやらなくもない」 「バカ言うなっ!」メグルは憤慨(ふんがい)した。 「超エリートのぼくでさえ、こんなつまらない仕事で『天界』行きの足止めを喰らってるっていうのに!」  交渉決裂とばかりに『魔捕瓶(まほうびん)』をちゃぶ台の上に叩き置くと、メグルは大の字に寝転がって、ポケットからくしゃくしゃの名刺を取り出した。 「仕方がない。気が向かないが、やつを頼ってみるか……」
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