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02-06
「協力しないのか?」
「当然だよ! おいらがお前さんに協力するのは、この世界でのんびり暮らすためなの! 魔鬼相手に喧嘩なんかしたら、もっと深い深ぁ~い穴に隠れて暮らさなきゃならんじゃないの!」
するとメグルは無言でモグラを見据えつつ、カバンから『魔捕瓶』をひとつ取り出した。
「ちょ……おいおい、何のまねだよ?」
「何って……。ぼくの仕事は越界者を捕まえることですよね?」
「なんでいきなり敬語になるんだよ! いいかねメグルくん、おいらを捕まえたら、お前さん、情報が無くなって満足に仕事ができなくなるんだぜ?」
「仕方ありませんね。ぼくに協力できない者は、協力者とは言えませんから……」
メグルはモグラの目の前に『魔捕瓶』を突き付け、静かに呪文を唱え始めた。
「この世に不法に存在する……」
モグラの顔から血の気が引いて、シルクハットの隙間から滝のような汗が流れ落ちる。構わず呪文を続けるメグルに、ついにモグラは吐き捨てるように言った。
「わかった、わかった、わかったよ! 協力するってんだよ! ええい畜生めっ!」
メグルはにやりと笑うと『魔捕瓶』をカバンにしまいながら言った。
「誰が畜生だって? 『畜生界』なんて一度でパスしたぞ……。だいたいぼくは越界者なんか捕まえる気はないんだ。いままで捕らえた者も、ひとりとして地獄界へ送っていない」
「何だよ、息巻いてたくせに職務放棄か?」
軽蔑の眼差しを向けるモグラに、メグルは大きく首を横にふった。
「ぼくが心底頭にきているのは、越界者を利用して犯罪をさせる魔鬼さ。姿も見せず、手も汚さず、捕まるのは越界者だけ……。そんなの卑怯じゃないか。都合良く使われ、使えないとなると消される。そんな扱いをされて頭にこないのか?」
ぼろぼろのソファーにどさりと腰を下ろして、モグラは額の汗を拭った。
「おいらの仲間もずいぶん奴らに消されたっけな……。そのたびに穴の中に隠れて、ぶるぶる震えて……。仕返ししようなんざ、夢にも……」
モグラは小刻みに震える膝をバシンと平手で叩くと、そのまま強く握りしめた。そして、くつくつと笑いだす。
「へへ、武者震いが止まらねぇ……。覚悟はいいんだなメグル? 『天魔』を相手に喧嘩を売ろうなんざ、怖いもの知らずじゃなきゃできねぇ! こりゃあ、大喧嘩になるぜ!」
「ああ、やろう! 大喧嘩!」
そう言いながらもメグルはぞくりと寒気を覚えた。
胸が高鳴り、額から一筋、汗が流れる。
恐怖のなかで興奮する。この感覚には覚えがあった。試練はいつだって容易くはない。いつだって、限界を試されている気がする。
人間界に転生した訳ではないメグルにとって、乗り越えるべき試練があるはずはなかった。
しかし、それでも自分は人間界で与えられた十二の試練から、ひとつも逃げずに乗り越えてきたという自負があった。困難な道があれば、それこそが進むべき道だと信じている。
「この道こそ、進むべき道……」
メグルは自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。
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