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02-07
「よし。そうと決まりゃあ場所の特定だ。
魔鬼は夜に人気のない場所を選んで越界門を作るんだ。越界門が開くのは満月の夜だからな。そのとき、まわりに人がいない場所の方が好都合なのさ。廃墟や墓場。美術館、博物館など公共の施設、そして……」
モグラはマウスを滑らせて、点滅する赤い光の周辺をさらに拡大させた。市街地が現れ、モニタに施設名が表示される。
「都立成道小学校? どっかで聞いた名前だ」
メグルが首をかしげると、モグラは事も無げにこたえた。
「前世もこの辺りで暮らしていたとしたら、名前くらい耳にしてることもあるだろ。たぶん、越界門はこの学校のどこかにあるはずだぜ」
くせのついた前髪をくるくると人差し指に絡ませながらメグルが呟く。
「そして魔鬼もこの学校の近くにいて越界門を見張っていると……。
満月は三日後か。しかし、誰が魔鬼かわかってないと迂闊に近づけないな」
メグルが眉間にしわを寄せると、モグラも腕を組んで唸った。
「魔鬼は大胆にして狡猾に人間界に紛れ込んでいるからな。社会的に信用があって、なおかつ人に影響を与える立場の人間になりすまして、社会を混乱させることが多いんだ。
たとえば政治家や実業家、新聞やテレビなどのマスコミ関係者、それから有識者と呼ばれる博士や教授……」
メグルが顔を上げた。
「ってことは……教師か?!」
「ああ、間違いねえ。教師なら夜の学校にいても不思議じゃねえから、越界門を守るにはうってつけだ。よし。ここはひとつ潜入捜査といこうや」
「学校に潜り込むのか? 教師の経験なんてないけど……」
戸惑うメグルを見て、モグラが腹を抱えて笑いだした。
「何言ってんだよ、お前さん鏡見たことねえのか? どう見たっておめぇ、小学生じゃねえか!」
メグルは愕然とした。
管理人として人間界へ降りてきて此の方、超エリートの自分が子どもなどという、まさに未熟を具現した姿に変わったことを認めたくなくて、その事実を心の中でずっと否定してきた。
それ故メグルは、自分が子どもであることをすっかり忘れていたのだ。
(なんてことだ……。人間界を一度でパスした超エリートのぼくが、鼻を垂らした子どもたちと一緒に、小学校へ通うことになるだなんて……)
「どうにも気が乗らない計画だなぁ……」
及び腰のメグルに、モグラが活を入れる。
「誰が好き好んで学校なんかに行くもんかい! だいたいおいらはガキが大嫌いなんだ! 泣くわ、叫ぶわ、しつこいわ……。お前さんがどうしても魔鬼と喧嘩してえって言うから、仕方なく協力するんだぜ?」
「そういうことじゃなくて……」
メグルがあわてて弁明する。
「ぼくはこの世に存在していないはずなんだ。身分も証明できない人間が、学校なんかに入り込めるだろうか?」
するとモグラは、ぴんっと指で口髭を弾いた。
「心配すんない! 通行手形から住民票まで、お茶の子さいさいよ! 伊達に三〇〇年も人間界に潜り込んじゃいないってんだ!」
(なるほど。奥の見慣れない工作機械や作業台は、証明書などを偽造するためのものか。この男なら簡単にやりそうだ……)
メグルはひとり納得すると、得意満面のモグラに嫌味のひとつも言いたくなった。
「ここで偽造した書類をお仲間さんたちに売るのが、お前の生業ってわけだな」
モグラがてへへと笑ってこたえる。
「持ちつ持たれつだろ。目ぇつぶれよ!」
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