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04-03
すっかり体調を戻したメグルは、前世の息子であるトモルのことが気になって仕方がない。が、前世の記憶が薄れている状態では、何を話せばいいのか全くわからなかった。
とりあえず、きらきらと輝く瞳で見つめるメグル。
どうにも気まずそうなトモルの方から、何気ない話題をふってきた。
「あの……。メグルくんは前の学校で、ぼくに似てるっていう親友と、何して遊んでいたの?」
「えっ、遊び? ええとねぇ……」
メグルは前髪を指に絡ませながら、息子と何をして遊んでいたか必死になって思い出そうとした。トモルと再会したせいもあって、真っ白な霧に包まれた記憶の森にも風が通り、少しずつ前世の映像が浮かんでくる。
(河川敷でトモルが空を見上げながら走っている……。はしゃぐ声。ときおり聞こえる笑い声はぼくの声だろうか? 青い空を黄色い何かが、滑るように横切って……)
「よく……、河川敷の広場で飛ばしてたんだ。すーっとね、ええと……」
「もしかして、模型……飛行機?」
トモルが聞いた。
「そう! 模型飛行機だよ!」メグルが叫んだ。
夜空にはじけた大輪の花火のように、沈んでいたトモルの表情がパッと明るくなる。
「ぼくもよく飛ばしてたんだ。お父さんと!」
メグルの頭の中の霧が、草の香りを含んだ夏の風に吹き飛ばされた。
河川敷での思い出が、はっきりとした景色へと変わっていく。
真っ青な空にそびえ立つ入道雲。
ゆるやかな弧を描きながら旋回する、黄色い模型飛行機。
メグルとトモル。ふたりの頭の中に描かれている情景は、全く同じものだった。
飛ばしては落ち、また飛ばしては落ちて、ようやく大空に浮かび上がった飛行機を追いかけ、ふたりで走った。
メグルが現実の景色に目を戻す。思い出の中の明るく元気なトモルの姿が、保健室にこもって本を読みふける、目の前のトモルの姿と重なる。
「どうしてトモルは、保健室にこもるようになってしまったの?」
ふいに口をついたメグルの疑問に、まるで風船から空気が抜けるように、トモルの笑顔がしぼんでいく。
(しまった。軽率すぎた……)
自分の言葉に後悔するメグル。
しかしトモルは、静かに口を開いた。
「お父さんは病気で死んじゃったけど、お母さんと約束したんだ。ふたりで頑張っていこうって……。でも、夏休みが明けて学校に行ったら、みんながぼくに冷たい視線を向けるようになっていて……。いまはすっかり、ひとりぼっちなんだ……」
「そっか……」
(トモルがいじめられていた記憶なんてない訳だ。いじめは、ぼくが死んだあとに始まったのだから……。
やはり管理人の仕事なんて請けずに、守護霊として見守るべきだった)
メグルは軽い気持ちで管理人を引き受けてしまったことを、深く後悔した。
「ありがとう。言いずらいこと、話してくれて」
「そう言われれば、なんでだろう……?」
トモル自身、初対面のメグルに、自分のことを明け透けに話したことが不思議だった。
「メグルくんがお父さんと似ているからかな。さっきの、前髪をいじる仕草とか……」
そのとき終業のチャイムが校内に鳴り響いた。
トモルはベッドから飛び降りると、足もとに置いてある大きなカバンを手に取り、
「ぼく行くところがあるから……。じゃあね」
と、足早に保健室から走り去っていった。
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