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05-03
「知りたいかね? 前の校務員が急に辞めてしまった、理由を……!」
教頭の目が怪しく光る。
すでにモグラは恐怖で失神。
メグルはポケットに手を突っ込み『魔捕瓶』を握りしめていた。
その手に汗がにじむ。
「一ヶ月ほど前の出来事だ……」
しかし教頭は魔鬼の正体を現すわけでもなく、淡々と話を始めた。
「わたしの自宅に警察から連絡があったのは午前一時頃。学校で爆発音が聞こえたと近所の住民から通報があったのだ。すぐに警察は学校へ電話をしたが、誰も出ないので、わたしに連絡したそうだ。
学校へ着いたとき、すでに警察は学校の外を見まわりしていた。わたしも同行したが爆発が起きたような形跡はなかった。その日は満月でね、灯りが無くても十分に見渡せるほどだったよ……。
鍵を開けて校舎内を手分けして見まわることになると、わたしは真っ先に校務員室へ向かった。爆発騒ぎよりも、この緊急時に連絡がつかない校務員に腹を立てていたのだ。酒でも飲んで泥酔しているのか、あるいは宿直せずに外出しているか……。
しかしそうではなかった。彼はしっかり校務員室にいた。ひどく怯えて、うずくまっていたのだ。わたしは彼に事情を問い詰めた」
教頭はそこで一口お茶を飲み、静かに息を吐いてから話を続けた。
「旧校舎の最上階。ここから見えるだろう。あそこだ」
教頭が窓を指差す。開け放たれた窓の外に、闇夜に黒く浮かぶ旧校舎が見える。
「その日の午前〇時頃、あの辺りに閃光が走ったそうだ。すでに就寝していた彼は、その光と、その直後の大きな爆発音に飛び起きて、急いでそこへ向かった。というのも、あの階には理科室があった。いまはただの物置だが、そこで何かが爆発したと思ったそうだ……。
しかし、いくら調べても理科室に異常はない。仕方なく校務員室に戻ろうとした彼は、廊下の突き当たりにある大鏡に、もやもやとした人影のようなものが映っているのを見つけた。
爆発音を起こした犯人かと思って、彼は鏡に映っている場所にライトを向けてみた。だが誰もいない。目の錯覚か――。そう思って、また鏡にふり返ったとき……。彼は見たのだ。大鏡の奥から這いずり出てくる、複数の人影を!」
教頭がふたりの顔を交互に見る。いつのまにか目を覚ましていたモグラも含め、ふたりは真剣に聞き入っていて、その顔に恐怖の色はない。
「その日の朝に彼はこの学校を去った。わたしは何かの見間違いだろうと思って他言はしていない。だが何も知らないはずの教員たちのあいだにも、いつのまにか噂が広まっていたのだ。『旧校舎大鏡の幽霊話』として……」
教頭はすっと立ち上がると、
「一応知らせておこうと思ってね。あとで聞いてなかったと泣きつかれても困るので」
と言い残し、校務員室をあとにした。
廊下に響く硬い足音が遠退くのを見計い、メグルが口を開いた。
「モグラ、あの話は……」
「ああ、間違いねぇ。満月に鏡。どっちも越界門を開く条件に合ってやがる。爆発音も一番初めに門を開くときに起こる現象だ」
「じゃあ大鏡から這いずり出てきた、複数の人影っていうのは……」
「もちろん越界者たちだ。魔鬼も出入りするが、やつらは光も飲み込むような漆黒の影だからな……。そんとき密入界した越界者、すでに人間社会に潜り込んで、魔鬼の指示で動いているはずだぜ」
メグルは闇夜に黒く浮かび上がる旧校舎を睨みながら、前髪をくるくると指に絡ませた。
「旧校舎の大鏡が、先月、開かれたばかりの越界門で確定だな」
「よっしゃ! その鏡、ぶち割ってこようぜ!」
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