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「やっぱり今日で、お別れなんだね」
消え入るような声でタカが言う。これ以上続けても、行き場のない恋。
「それが、いいと思う。出会いがもっと早かったら・・・なんて、今更よね」
「・・・元気で。いろいろごめん」
「謝らないで」
そんな顔されたら、この恋が後悔だけに埋もれてしまう。
「じゃ、行くよ」
2人で入ったカフェに取り残された私は外の景色を見た。
厚い雲がかかっていた空から、ぽつぽつと雨が降り始めていた。
雨よ、降れ降れ、大降りになれ。
私が泣く代わりに、どしゃぶりになれ。
こんな陳腐な不倫の恋をした私を嗤うように。
そんな風に思いながら、どしゃぶりの外を見ていてどれくらいになったろう。
私の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
好きだった・・・ほんとに好きだった。
だけど、結婚しているのを隠していた人と恋愛を続ける自信がなかった。
「大丈夫、ですか?」
ふと、声をかけられた。あぁ、隣の席で勉強していた学生さんだ。
「恥ずかしいところ、見せちゃいましたね。ごめんなさい」
「なんで謝るんですか?・・・これで涙を拭いてください」
緑と茶色のチェック柄のハンカチを差し出してきた彼。あれ?どこか見覚え場ある。
「・・・えっ、高橋良太くん?」
私は、高校の英語教師をしている。彼は、3年前に卒業して行った生徒だ。まさか、こんなところで会うなんて。
「美雨先生、お久しぶりです。先生のおかげで大学でも上手くやってます。・・・あの時の言葉、覚えてますか?3年経った今でも、まだ釣り合ませんか?俺、大人になりました」
卒業式の告白・・・私は、大人の男性としか付き合わないの、と無下に断った彼の気持ち。
「私は、年取ったよ。もぅ、30だよ」
「可愛い30です・・・あの、雨が止むまでおしゃべりしませんか?」
ボッ!不覚にも赤くなってしまった。
雨よ、降れ降れ、降りしきれ。
ずっと止まずに、ずっと一緒にいられるように。
Fin
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