第1章:天才ピアニスト現る

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 思わず蓮は顔をあげて亮介の顔を見るが、隣にいるスカイも同意見のようだ。一方、姫宮は表情ひとつ崩さず、スカイをじっと見つめている。 「姫宮、やれるのかやれないのか、どっちだ」  スカイの言葉に姫宮は立ち上がり、蓮の顔をチラリと見る。 「余計なことは考えなくていい。今は譜面通りのキーボードの音が欲しい」  その言葉は蓮に突き刺さる。でも、その通りだ。今の自分は譜面通りに弾けなかったのだから。 「なぁ、姫宮、弾けるなら弾いてみてよ? 俺もお手本見たいしさー」  蓮が極力明るい声で尋ねると、姫宮は驚いた表情をした。 「蓮がいいなら、僕はかまわないけど」 「やった、サンキュ。譜面はここにあるからさ」  姫宮の肩をぽんぽんと叩き、蓮は後方にあるパイプ椅子に向かって歩く。すれ違ったときに視界に入った姫宮の申し訳なさそうな表情をいますぐ記憶から消したい。 「今、聞いてた五曲、頭からいくけど大丈夫か」  譜面を手に取った姫宮はスカイに向かって頷き、すぐにキーボードの鍵盤を確かめている。今朝、音楽室でグランドピアノ弾いていた姿は王子様そのものだったが、キーボードを弾く姿はどうなのだろう。いや、きっとイケメンならなんでも似合うはずだ。 「じゃあ、始めるね」  ドラムの健一が振り上げたスティックがカウントを取る。スリー・ツー・ワン、ゼロの合図と共にスカイと亮介のギターが一斉にかき鳴らされ、オープニング曲にふさわしいパーティが始まりそうなにぎやかなサウンドが響く。そしてそこに邪魔をしない高音の和音が二人の音を邪魔しないタイミングで、混ざり合う。大きな体からのびた長い腕、そして長い指先がキーボードの上でリズムに合わせて踊るれば、三人の音をドラムが包み込む。 「うわ」  思わず蓮は声が出ていた。姫宮のキーボードは、まるで最初からそこにあったかのようにバンドの音に溶け込み音符を刻んでいる。 「続けていくぞ!」  スカイの掛け声で二曲目、三曲目と演奏は続いても姫宮のキーボードは完璧だった。ギターとボーカル、としてドラムの邪魔をしない絶妙なキーボードは今までのHopesとは少し違ったイメージだ。そして姫宮の演奏は譜面通りでまるでピアノのお手本のようだ。  そして今朝の王子様のような気品を保ちながら、激しいロックテイストの楽曲を奏でながらも、まるでキーボードとワルツを踊っているかのような流れるような旋律に蓮はすっかり引き込まれていた。
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