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◇◇◇
「それじゃあ、今から担当が来るので、そこで待って下さい」
署に着いて車から降ろされた後。その流れで私達は二階にある取調室に別個で案内され、私は狭くて薄暗い密室の机だけしかない部屋にポツリと一人取り残された。
これから事情聴取って……。
一体何を聞かれるんだろう。
これまで真面目に生きてきた中、当然ながらこんな経験はある筈もなく、一人取り残される心細さに体が震えてくる。
けど、事情聴取される恐怖よりも、もしかしたらこのまま健君と会えなくなるかもしれない恐怖の方が勝り、少しでも気が緩むと涙が溢れそうになってきた。
すると、暫くして取調室の扉が開き、そこから足が長くて背の高いスラっとした若い刑事さんが部屋の中へと入ってくる。
その瞬間、私は目をまん丸にして、その場で固まってしまった。
それは向こうも同じようで。私に視線を向けた直後、一瞬だけ体の動きが止まる。
「……やっぱり、あなたでしたか……」
それから直ぐに呆れた面持ちへと変わり、深い溜息を吐いて向かいの椅子に腰を掛けた。
そう。この人は忘れもしない。以前結婚詐欺の被害に遭った時に対応してくれた、超無愛想な刑事さん。
もう二度と会うことはないだろうと思っていたのに、まさかこんな形で再会してしまうとは夢にも思わなかった。
「椎名真子さん。どうりで見覚えある名前だと思いましたよ」
そう言うと、若い刑事さんは持っていた書類に目を通した後、再び深い溜息を一つ吐いた。
こっちは二度も騙されているのに、相変わらずの冷めた態度に、今度は怒りで体が震えてくる。
けど、何度見ても顔はかなりのイケメンだった。
私よりも小顔だし、年齢も同い年くらいに見えるのに肌艶はいい。顎も細いし、鼻筋も整っていて高いし、体格も細身だけど全体的に引き締まっている。
それに、刑事故なのか。日本人離れした堀の深いくりっとした切長の大きな瞳からは、ただならぬ圧を感じ。しかも、目眉間が近く眉毛が吊り上がっているせいで、黙って見つめられると何だか怖い。
けど、私は何も悪いことはしていないので、ここは怯まず堂々としなきゃダメだと。
そう自分を奮い立たせて、私はこの刑事さんをじっと睨み付けた。
「あ、あの。健君は一体何をしたんですか?」
とりあえず、何か言われる前に先手を打とうと、気合いを入れて開口一番に質問をぶつけてみる。
「…………本当に何も知らないんですね?」
それから刑事さんは暫く私を黙って凝視した後、静かな口調で問いただす。
「も、勿論です!今だって頭の整理が全然出来ていないのに。いいから教えて下さいっ!」
その鋭い眼差しに怖気付きながらも、早く真相が知りたい気持ちに、私は臆せず声を荒げた。
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