第1話.騙される方が悪い?

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すると、刑事さんはまたもや真顔で私の目をじっと見つめてきて、その目力に再び怯んでしまう。 しかし、自分に罪が無いことをはっきりさせる為には決して顔を逸らしてはいけないと。 そう自分に言い聞かせながら、私も負けじと彼の瞳を見返す。 「彼は特殊詐欺……言わばオレオレや、キャッシュカード詐欺で、被害者宅に赴き騙した現金や物を受け取る、“受け子役”を多岐に渡りやっていたんです」 暫くして、刑事さんは私から目を逸らし書類に視線を戻すと、事の次第を教えてくれた。 「う、受け子……?」 その内容にいまいちピンと来ない私は、震える声で刑事さんの最後の言葉を復唱する。 「知らないですか?SNSなどで募集があって、簡単に手をつけられるんですよ。やる事も単純で短時間な上報酬も良いから、高額バイト感覚でやる人が多いんです。けど、結局は身の保障なんてないので、こうして自爆する人が後を絶たないんですけどね」 そんな無知な私に対して刑事さんは小さく肩を落とすと、ボードに挟んでいた一枚のチラシを私の前に差し出してきた。 そこには闇バイトと記載された、詐欺グループに関与するまでの一連の流れが簡単なイラストで書かれたもの。 言われてみれば、そんなポスターが駅や街中に貼ってあった気がするけど、自分には全然関係ないことだと思って全く気にも留めなかった。 「彼のような人間は詐欺グループの中では所詮捨て駒でしかなので、大元に辿り着くのはなかなか難しいんです。とりあえず、兼平は余罪が多いので、拘留後それなりの刑に処されるでしょう」 それから、何も反応を示さない私にはお構い無しにと。冷めた表情で宣告してきた健君の処遇について更なるショックを受けた私は、もう言葉なんて何一つ出てこなかった。 まさか、健君はそんなに沢山の人から金品を騙し取っていたなんて。 しかも、警察が来た時の反応を見た限りだと、犯罪だと認識しててずっと続けていたのだと思う。 もしかしたら、今付けているピアスも、今日のケーキも、全部闇バイトで稼いだお金で買ってきたのかもしれない。 「……ううっ……」 そう思った途端。悲しさと悔しさと怒りで刑事さんの前だというのに思わず涙が零れ落ちてきて、暫くその場で泣き続けた。 その間、刑事さんは慰めの言葉など何一つかけずに、私が泣き止むまでただひたすら無表情のまま静観していた。 それもどうなのかと。心の片隅で不満を漏らしながら、段々と冷静になり始めた私は、何とか無理やり涙を止めて刑事さんの方へと向き直す。
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