第1話.騙される方が悪い?

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「ねえ、紗耶。私もしかして前世はとんでもない悪人だったのかな?」 そうじゃなきゃ、こんな酷い仕打ちを立て続けに味わうなんておかしい。 これまで素直に大人の言うことを聞いきて真面目にコツコツと生きていたのに、神様は一体私の何が気に食わなかったのだろうか。 「違うでしょ。真子の目が節穴なの。それに考えが甘い。頭ごなしに人を信じるから痛い目みるのよ」 そんな私の疑問に対してクールに答えると、紗耶は艶やかな長い黒髪を耳にかけてから、釣り上がった鋭い目で私を一瞥した。 確かに、私も紗耶みたいに冷静沈着に物事を考えることが出来れば、きっともう少しまともな人生を送れたのかもしれない。 加えて紗耶は私と違ってここの正社員だし、顔も美人でモテるし、派遣の私ともこうして親密に接してくれる程優しくて面倒見が良いし……。 それに比べて、私は田舎上がりの世間知らずな芋娘。 けど、都内で暮らすようになってからお洒落に気を遣い始め、上京した時に比べれば、かなり垢抜けたとは思う。 髪も最近人気のミルクベージュ色のボブスタイルにして、化粧も動画で勉強してるし、服だって仕事帰りにいつも通るショッピングモールで流行をチェックしている。 しかし、年を重ねるごとにコスメも服もそれなりにきっちりと見せたいのであれば、お金はいくらあっても足りない。 だから、派遣の稼ぎだけでは贅沢はなかなか厳しく、そんな中での彼氏のプレゼントは本当に嬉しくて、これはずっと大切に身に付けようと思った。 「昔ね、大好きだったおばあちゃんに言われたの。自分が信じたいと思った人がいれば最後まで信じてあげなさいって。だから、私は健君のことずっと信じてるから」 例えそのせいで騙され続けていたとしても、疑うよりは信じた方が性に合うから私は諦めたくない。 きっと健君はこれまでの人達とは違う。信じ続ければいつかきっと報われる。 そう願って断言すると、暫く私の目をじっと見つめた後、紗耶は再び大きな溜息を吐いて私から視線を外した。 「もはやその言葉は呪縛ね。てか、それだけ騙されても人間不信にならないあんたのメンタル面がある意味凄いわ。何はともあれ、これ以上変なことに巻き込まれないように気を付けなさいよ」 それから、顰めっ面で相変わらずの嫌味たっぷり含めた忠告をされたので、一先ず私は大人しくそれを受け入れることにしたのだった。
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