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こうして今日一日の業務が終わり、ここから歩いて約十五分くらいの場所にある自宅へと真っ直ぐ帰る。
“椎名”と表札が掲げられたアパート三階の角部屋が私の家で、個人情報に関して敏感な昨今。今時表札を掲げているのはこの階でうちぐらいしかない。
田舎では当たり前だったから、当然掲げるものかと思って設置したのだけど、どうやらその認識は都会では違うと後々気付いた。
でも、付けてはいけない物でもないし、あれば配達員の人は助かると思うから、私は気にせずそのまま設置している。
「健君、ただいまー!」
「真子おかえり。丁度良かった、今ご飯出来たよ」
それから鍵を外して扉を開ければ、同居している愛しい彼が笑顔で出迎えてくれて、同時に部屋の奥からカレーの良い匂いが漂ってきた。
同じ派遣会社に勤める健君の勤め先はシフト制らしく、こうして非番の日は家事をして私の帰りを待ってくれるという、何とも献身的な三つ年下の彼氏。
私も料理は苦手ではないけど、健君の方が圧倒的に腕が良いので、いつもこうして時間のある日はご飯を作ってくれて、時にはお弁当まで用意してくれる。
加えてとても綺麗好きで、言われなくても小まめに掃除をしてくれたり、疲れている時はマッサージをしてくれたりで。
結婚したら絶対に苦労することはないだろうと思えるくらい、健君は私にとって完璧だった。
ただ、紗耶の言う通り、先の事を考えるなら正社員として働いて欲しい気持ちはある。
以前それとなく話したら、健君も色々と考えていることはあるそうなので、私はそれを信じることにした。
「そういえば、今日職場の人からお土産でお菓子貰ったんだよ。食後に一緒に食べよう」
上着を脱いで部屋着に着替えたあと、通勤バッグから薄ピンク色の小袋に入ったクッキーを取り出すと、私は上機嫌に彼の前に差し出す。
「そうなんだ。実は俺もケーキ用意したんだよね。もうすぐ俺ら付き合って一年経つじゃん?だからお祝いしたいなって」
そう言って可愛い子犬顔で眩い笑顔を振り撒いてくる健君。
その純粋な心に撃ち抜かれた私は思わず彼を抱きしめた。
「もう、健君のこと好き過ぎる。本当に付き合えて良かった」
「俺もだよ。真子は可愛いから派遣の中でも人気だったし、思い切って告白して本当に正解だったな」
そんな私を健君も愛おしそうに抱き締めてくれて、私の頬にそっとキスを落としてくれた。
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