第1話.騙される方が悪い?

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ああ、なんて幸せなんだろう。 こんなにも優しくて、私のことを大切に愛してくれる人なんて健君以外考えられない。 そんな人に裏があるなんて絶対にありえないし、紗耶も健君に会ったらきっと分かってくれると思う。 いつか予定が合えば、今度紗耶に紹介してみようかな……。 気付けば妄想はどんどん膨らみ、私はニヤけながら健君と一緒に夕食の準備をした後、彼の作った美味しいポークカレーを堪能した。 そして、食器を片し、職場の人から貰ったお菓子と健君が買ってきてくれたケーキの箱をテーブルに置いた途端。見覚えのあるロゴが目に入り、私は思わず二度見してしまった。 「ええ!?これって今話題の超有名なパティシエが作ったケーキじゃん!かなりの予約待ちなのに凄いね。しかも結構お値段するって聞いたよ」 それはついこの間バラエティ番組で紹介されていた、フランスで開業したパティシエが作ったというガトーショコラ。 濃厚で甘さ控えめの蕩けるようなチョコと、ほのかな洋酒の香りが絶妙に混じり合い絶品と謳われ、お値段は一万近くとかなり張るけど、絶大な人気で入手困難とされていた。 まさか、そんな凄いケーキを私のために健君が買ってきてくれたなんて、あまりの嬉しさに暫く言葉が出てこない。 「良かった。きっと真子なら喜んでくれると思ったんだ。お茶も用意したからね」 その隣で早くも健君は温かい紅茶を準備してくれたようで、マメな彼の振る舞いにつくづく感心する。 「それにしても健君って最近本当に景気が良いね。新しく見つけた副業ってそんなに稼ぎがいいの?」 それから、またもや高価な代物を買ってくれたことに対し、私は不思議に思いながら健君の顔を見上げる。 「うん。ちょっと友達の手伝いをしてて。安定してないから社員になれるわけじゃないけど。はい、どうぞ。良いから早く食べよっか」 すると、健君は私から視線を外し、お茶を淹れたカップを私に差し出してくれた後、席に座るよう促された。 友達の手伝いって一体なんだろう。 安定してないってことはベンチャー企業か何かなのかな? 以前も副業のことを少し触れてみたら、健君は詳細を語らず今みたいに笑ってはぐらかしてきた。 それだけ、まだ企業が小さいということなのだろうか。 それでも、急に数万のお金が手に入るくらいなら別に話しても良いような気がするけどな……。 ……まあ、いっか。 とりあえず細かい事は置いといて、まずは健君が買ってきてくれたケーキを食べようと。私は上機嫌に椅子に座った時だった。 突然鳴り出したインターホン。 急な訪問に心当たりがない私は、ふと時計に目を向けて時刻を確認する。 夜の八時過ぎに一体誰だろう? 健君の宅急便かな? 「私出るね」 とりあえず、私はさほど気にすることもなく直ぐさま席を立つと、インターホンの応答ボタンを押す。 「はい。なんでしょうか?」 「夜分にすみません、警察です。そちらに兼平健さんはいらっしゃいますか?」 そして、全く予想だにしていなかった来客に、私はその場で固まってしまった。
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