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……え?
警察?なんで?
暫く思考が停止していたが、ようやく状況を飲み込み始めたと同時に、無数の疑問が頭の中を駆け巡る。
今まで通り、私達は普通に生活していたのに、何故警察が家に来るのか全く分からない。
彼に用事があるというなら、もしかしたら、何か変な事件にでも巻き込まれてしまったのだろうか。
「……け、健君?何かあったの?」
私は応答するよりも先に後ろを振り向くと、視線の先には顔を真っ青にした健君が異常なくらい震えだしていて。その姿を目にした途端一気に不安が押し寄せてくる。
「椎名さん?どうしました?ちょっと出てきてもらっていいですか?」
「は、はい!」
何の返答もない事に痺れを切らしたのか。少し威圧的な声で警察の人に催促されてしまい、兎にも角にも追い払う訳にはいかないので、私は慌てて玄関へと向かいドアノブに手をかける。
「あ、あの……健君が一体何を?」
それから恐る恐る扉を開けると、スーツを着た三人の男性が無表情で立っているのを確認した直後。ドアの隙間に片足を入れられ、扉を思いっきり開けてきた。
「詐欺の疑いで兼平健の逮捕状が出ています。あなたも参考人として署までご同行願いますか?」
……。
…………え?
なにこれ?何かのドラマの撮影?
急に警察手帳を見せられて直ぐに、一枚の紙切れを目前で提示されてと。まさしくテレビで見たことのある光景が自分の前で繰り広げられ、私は思わずカメラがないか周囲を確認してしまった。
けど、こんな時間に一般民家でアポ無し撮影なんてあるはずもなく。目の前に立っているのは間違いなく本物の警察官で、当然ながらこれは夢でもなんでもなく、今現実に起こっていること。
「あ、あの……?えっと、さ、詐欺って……?」
頭が真っ白になり、どう返答すればいいのか狼狽えていると、二人の警察官が構わず部屋の奥まで進み、ダイニングテーブルの椅子に座って俯いたまま呆然としている健君を、挟むようにして立った。
「午後八時三十五分、兼平健。あなたを詐欺容疑で通常逮捕する」
そして、再び本人の前で先程の紙一枚をもう一度提示すると、そのうちの一人が腰にぶら下げている手錠を取り出し、健君の手首に掛ける。
それからは、私も頭の中がずっと真っ白のまま、とりあえず参考人として健君と一緒に乗用車に乗せられ、何も会話をする事なく警察署へと連れられていった。
結局、彼は何をして捕まったのか詳細は何も聞かされず、この後の事情聴取で詳しい話はすると言われただけ。
私も未だこの現実を受け入れる事が出来ないので、話をする気も起きず、放心状態のまま車に揺られていた。
……せっかく健君が買ってきてくれたケーキ、まだ全然手を付けていないのに……。
今頭の中で浮かぶのはそれぐらいで、彼が犯罪者であるという認識がないまま、健君と同じように呆然と窓の外を眺めていたら、あっという間に警察署へと到着した。
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