睦月の序

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「あ゙〜、最悪…」 誰に言うでもない悪態を付きながら、ゴミだらけの路地を歩いていた。コンビニ袋片手に残り少ない小銭、鬱陶しい程に降る雨と濡れた髪に苛立ちながら、フラフラと帰路を急ぐ。 ほんっと、雨は嫌いだ。頭痛は起こるし湿気で髪は跳ねるし、全身濡れるし冷たくて寒いしで気分はだだ下がり…。オマケに風邪ひきそうになるし、いい事なんかひとつもねぇ。頭の中がぐるぐると嫌な感情で埋め尽くされる中、何かに足を取られ盛大に転んだ。手に持っていた袋は体の下敷きになり、中でグシャッと潰れた感覚がした。 「いっっってぇな……、クソ…」 擦れたを振りながら引っかかったそれに目を向けると、底が両手の平サイズくらいの鉢植えが転がっている。なんだこれ、と雨に打たれているにも構わずまじまじ観察してみると、つい最近に捨てられたもののようだ。鉢植えの周りの泥の付き具合、変色具合、それら全てがかなり新しい。しかも、目利き力節穴同然な俺でも分かるくらい、高級そうな装飾が施されている。 「おまけにまだ枯れてないじゃねえか。もったいないなぁ」 捨てた当事者は同様に節穴なのかただの金持ちなのか知らないが、一般的な人からして見りゃ贅沢すぎる無駄使いだ。ぐしょぐしょのコンビニ袋をその場に置き、傷口を覆うように袖口を伸ばし、植木鉢を掴み起き上がらせる。長時間伏していたせいか、茎は変な方向に曲がっていた。先端には蕾が成って居て、見える花びらはどうやら黄色のようだ。 「おー向日葵かなんかか?」 少し荒く蕾を持ち観察するが、どうも本で読んだもののどれにも当てはまらない。小中の頃に理科で習ったある程度の植物しか分からないが、何故かその花にすごく惹かれた。 普段なら花は横目に見るだけだと言うのに。 捨てられてるくらいだし、拾っても誰も怒らないだろう。そう思いながら鉢を片手に袋を持ち直し、痛む擦り傷に耐えながら住居へ向かった。虚しいかな、話し相手として花が買いたかったけど、如何せん金がなかったからタダで手に入って得をしたな。 「今日はラッキー」 嫌いな雨と、全身びしょびしょになったことなんて気にせず、上機嫌のまま花を抱えて路地を通り過ぎた。
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