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1 prologue
「じゃあ、これで」
「ああ。君も元気で」
「貴方もね」
そう言って彼女は俺の顔をジッと見つめてから溜め息をつく。
彼女は美しい人だと思う。
気の強そうな瞳には罪悪感だろうか、迷っているような色が見えた気がする。
社交も上手に熟すし知的な会話は一緒にいて退屈はしない。
流石は上位貴族の生まれだと思う。
商会にとってはとても良い広告塔にもなってくれていた――
「本当に良いの? 私はこれから貴方のお陰で思いの通りに生きていけるのよ?」
「ありがとう。心配いらない。俺は俺で適当にやっていくよ。幸せになってくれ」
「そう・・・」
少しだけ笑顔を見せて彼女はソファーから立ち上がるとドアからそっと出て行った。
俺はテーブルに残った記入済みの離婚届けに視線を向けて
「提出しとかないとな」
そう呟いた。
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