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2 出会い
彼女との出会いは、学生の頃だった。
自分は既に高等科に在籍していて、商業学科で学んでいた。
「ねえ、お兄さんコレ落としたよ」
廊下を歩いていると幼い声で呼び止められたので振り返ると、天使のような子供が立っていた。
「はい。大事なものじゃないの?」
屈託のない笑顔で差し出されたのは自分が持っていた提出前のレポートの下書き。
「渡り廊下に落してたよ」
「あ、ああ。ありがとう」
「どういたしまして」
彼女から書き込みと訂正を繰り返した、ちょっと見には読めないレポート用紙を受け取る。
「お兄さん凄いね。すっごい勉強してるんだ」
「読めたの?」
「ううん。全然チンプンカンプンだったけど、大事なものだと思ったの」
「そっか」
彼女の制服の胸のバッジで初等科だということが分かる。
「じゃあね。今度は落とさないようにね」
「ああ」
踵を返すと、少しだけ離れた所で友人達が待っている方へと小走りで去っていく。集団に入っていくと全員が何故かこちらをチラチラ見ながらきゃあきゃあ言うのが聞こえてきた。
「よお、色男。お子様にも大人気だな」
隣りにいた友人が声をかけて来たが、それには答えず肩を竦めただけで終わらせた。
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