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5 婚約
「お前の婚約が決まった。侯爵家の令嬢だ」
いきなり実家に呼び出されて、突然父にそう言われて驚いた。
彼は経営する商会を大きくするのに余念がなく、息子も駒として考えている様な所があった。
多分、この縁も何かしら商売の利になると踏んだのだろう。
「えらく爵位に差がありますね」
我が家は子爵家だ。
商会自体は軌道に乗っており国中にその名を轟かせてはいるが、金はあっても地位は低い。
「侯爵家の伝手を金で買ったと思え」
なんてこと無さそうに肩を竦める父親。
「アッチから声が掛かったんだ。没落寸前だからな。娘を担保にして商会の経営を手伝って欲しいらしい」
悪びれない様子が実に父らしいと思う。
「手伝うという事は俺が入り婿ですか?」
「いや、お前は優秀だから侯爵家にはやらんよ。嫁いで貰う。相手方もそれで良いらしい。あっちも跡継ぎはいるんだ」
「成る程。了承しました」
俺の返事に満足気に頷く父の顔を見ながら、どういう訳か図書館の彼女の横顔を急に思い出し不思議に思ったが、直ぐに忘れた。
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