6 喧嘩

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6 喧嘩

 「何でお前なんだよッ」  放課後いきなり親友に呼び出されて顔を殴られるという訳のわからない事態に陥っていた。  呆然とする俺に向かい彼が吠えた。  「アイツは、おれの幼馴染なんだ。幸せにするって約束したんだ・・・ なのに」  「なんの事だ?」  「お前の婚約相手だよッ」  聞けば彼女は彼の想い人だったらしい。  幼い頃に将来一緒になる約束をしたのだという。  「我が家が望んだんじゃない。侯爵家が持ってきた縁談だ。爵位が上の連中の申し入れを下級貴族が断れる訳がないだろう」  痛む口の端を拭うと制服の裾に血が付いた。  彼の家は伯爵位を賜っているが領地経営が主であり、彼女の家の商会を立て直す手伝いは出来ないだろう。  彼自身が次期当主で経営学科の生徒であり、俺のように商業学科で経済を専門に学んでいるわけでは無いからだ。  「家の事情で婚姻なんて貴族なら当たり前だ。わかってる・・・ でも何でよりによってお前なんだよ」  彼とは同じ寮生であり、しかも同室だった。  気持ちは分からなくもないが、当主の決めたことだ。――未成年のうちは従うしかない。  走っていく彼の後ろ姿を見送っていると、横から突然ハンカチを差し出されたのでギョッとした。  「水で濡らしてあるから、使って?」  図書館のあの子だった。
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