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86 謝罪文
若干寝不足で出勤したが、いきなりクリスに捕まり社長室に連れ込まれた。
「兄さん、新聞読んだ?」
「いや、今日はちょっとそんな時間がなかったから読んでないな」
「これ見てくれ。昨日の『あの人』が言ってただろ? 無かったことになるって」
見れば、新聞各社がバーンスタイン侯爵家のスキャンダルは誤報だったと謝罪文を1面でデカデカと2段ぶち抜きで掲載してあった。
「おい、ほぼ全社が謝罪文を載せてるぞ」
「うん。ここまで足並みが揃うと却って怖いだろ」
どの新聞もステファンとアデラインの夫婦喧嘩は無かったことになっているし、不貞相手とされた男爵家には次女は存在せず、架空の人物になっていた。
それどころか件の男爵家が名誉毀損で記事を書いた新聞社を起訴までしている。
「情報統制が恐ろしいな」
「それだけこの国での『あの人』の地位とか発言力が高いってコトになるのかな・・・」
そう言いながらクリスも腑に落ちない顔をした。
多分俺はもっと渋顔になっていただろうと思う・・・
「まぁ、我が社としては会長の男色疑惑を払拭すんのが先だけどね」
真剣な顔でこちらを向いた弟だったが、残念ながら片方の眉だけがピクピク動いて笑いを堪えているのが見て取れて、つい頭を叩いてしまった・・・
「面白がるな」
「バレたか」
じゃれているとノックが聞こえ
「会長、お客様です」
と。
チャーリーの声がした。
「誰だ? 今日はそんな予定は入ってない筈だぞ?」
「バーンスタイン侯爵夫人です」
待ってくれ!?
昨日もこのパターンだった気がするのは俺だけか?!
クリスを見ると、肩を竦めて
「昨日と同じだね」
と、呆れ顔になっていた。
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