90 アデライン視点⑭

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90 アデライン視点⑭

 ずっと、自信なんかなかった――  父には助けてと言ったけれど信じてはくれなかった  ――父は私を守ってくれなかった。  母には死なないでとお願いしたけれどごめんねとしか答えてくれなかった。  ――母は私を残して天国に行ってしまった。  弟は一生懸命心を尽くしても、母じゃないと否定した。  ――私だって悲しかったし、寂しかったし、甘えたかった。  継母にはやめてと言ったけれど、結局鞭でぶたれた。  ――私が何をしたっていうの?  ステファンは私を好きだと言ってくれたけど、次に見かけた時は他の子と遊んでた。  ――彼は自分の都合のいい時だけ私に目を向けてくれるだけ。  婚約者だったエイダンだけが私を守ってくれてた。  何も言わずに、私に分からない様にだったけれど。  ――だから離れたくなかったの。  守ってくれたのは貴方だけだったから。  あなたの家族も暖かかった。  実家の家族より私をずっと大切にしてくれて嬉しかった。  ――でも彼は結婚しても私のことを必要だとは言ってくれなかった。  エイダンはモデルをしていた私を綺麗だと褒めてくれても、私にはキスもしてくれなかった。  彼は私を欲しいとは思ってくれなかったみたいだった――  迎えに来てくれたステファンと結婚して幸せになれると思ったけれど。  言葉はくれた。  抱きしめてくれた。  キスもした。  でも私には魅力がなかったみたいでセックスはしなかった。  ――結局他の女性に寝取られた。  ブルネットは平凡だと思うけれど眼を見張るような本物の宝石(サファイア)のような瞳を見て思い出した。  ステファンの取り巻きで淑女科の優等生で彼らと同い年の綺麗な女性。  あの人なら、ステファンは抱けるんだ?  ――私とは出来ないのにね。  最初の結婚からずっと。  誰も私と繋がりたくないみたい。  私のことを誰も女だって思ってないの?  綺麗って言われるだけの私ってお人形?  ――腹が立って。  ――癪に障って。  エイダンが学生の頃くれた金のチェーンに2人から贈られた指輪を2つ一緒にぶら下げたら、気持ちが凄く軽くなった。  ああ。誰とも私は結婚してなかったから、求められなくても当たり前だったのよね――  だって。  だぁれも女としての私の事欲しがって無いもの。  きっと魅力が無いのね。  一生誰にも抱かれることは無いんだわ。    そう思ったの。  だから――  ステファンが目の前で泣いてるのが、よく分からなかった。  何時も格好良くて、綺麗な女の子達に囲まれて、王子様みたいにキラキラしてた人が。  何で?   勃起不全?  閨指導のプロ?  愛しすぎて勃たない?  そんな事あるの?  私自身が愛される事は無かったのに?  愛する事も分からないのに?  愛されていいの?  神様、本当に信じていいの?
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