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92 言伝
「あ~、そうだ。マリア嬢で思い出しましたが、バーンスタイン卿に彼女から伝言ですよ」
今まで黙っていた弟がやれやれといった感じで急に口を開いた。
「?」
「『奥様にみっともない自分をちゃんと見せなさい』だそうです」
「あ・・・ 俺、一番最初にそれ彼女に言われてたんだ・・・」
その場の全員に彼が睨まれたのは仕方ないだろう・・・
まあ、もう見せてる。
その他大勢にも見られたけどな・・・
鼻を啜りながらアデラインに抱きついて『愛してる』を繰り返すステファン。
そして彼の頭を愛おしそうに撫でて静かに微笑みながら、やっぱり泣いてるアデライン。
ソファーに2人揃って座る姿を見ていて。
彼女の美しい赤い髪に長い間焦がれていた気持ちが俺の中から流れて行くように消えていき――
やっと。
俺の中でアデラインと俺の結婚が本当に終わったんだと腑に落ちた。
――今までありがとう
そう思った。
×××
「侯爵夫妻絡みでこの頃会長の仕事も休みがちでしたが、今の所特に困っておりませんね」
秘書が突然帰りに部屋に鍵を掛けながらそう言った。
「そういやそうだな」
「会長もそろそろ自分の仕事のペースを考え直した方が良いんじゃないでしょうか?」
「・・・ そうだな」
確かにグループも安定してきたし、商会も業績は右肩上がりだ。
もうちょっと俺も休んでもいいのかもしれない。
「せめて週1の休み位は取ってください」
「・・・ 善処する」
「新しく秘書も増えましたからね、仕事の効率も上がるでしょう」
忘れてた・・・
最近気がついた、もう1つの俺の悩みの種。
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