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11.
中身だけで98頁ということは、表紙と裏表紙を合わせればちょうど100頁。
それに気づいた時、みきのなかで何かがカチリとはまった音がした。
もし、腑に落ちる時に音がするなら、きっとこの音なんだろう。
「あきさん。結愛。本の1頁の体積の求め方は簡単でしょう? 本全体の体積を求めてから、頁数で割ればいいだけなんですから」
「なるほど」
「あき、さすがだわ」
「言われてみれば確かにそうね。よく分かったわ」
いのりにまで褒められ、みきはいささか照れながらもネタをばらした。
「おそらくこの龍宮奇譚という本が暗号に選ばれたのは、そこが理由でしょう。表紙も裏表紙も中身も同じ厚さで、頁数が合計で100となれば1頁あたりの体積を求めるのは、非常に簡単でしょうからね」
「確かにな。それじゃあ早速その龍宮奇譚とかいう雑誌を送ってもらって」
「あ、そうじゃないんです」
みきは手を上げて、あきを遮った。
その動きに結愛がわざとらしくのけぞったのが、横目で見ていても何だか可笑しかった。
「これは、覚え書きの本を頁ごとにバラバラに分けてあるっていう意味なんだと思います」
「頁ごとに本を分ける? なんだってそんなことを?」
いのりが眉をひそめた。
呉服屋のお嬢様からすると、本をバラバラにするというのはあまり品の良い行為ではないのだろう。
もちろん、みきも通常ならそれは同じ気持ちだった。
ただし、この場合は理由がある。
「結愛。確かこの郎銘館、隔離施設にする際、いくつかの改装工事をしていたわよね?」
「ええ。壁紙を張り替えたりとか、柱を補強したりとか」
「そのお金は藤次郎さんが出したんじゃないかしら?」
結愛は目を丸くした。
ただでさえ大きな瞳が、細く痩せた顔立ちでさらに際立つ。
「よく分かったわね? その通りよ。うちの父も言ってたの。本来なら政府がお金を出すべきところなのに、館を差し出させた上に修理費までもたせるなんてって」
「やっぱりね」
「どういうこと?」
みきはニヤリと笑った。
何だかあきがみせるような笑い方だったが。
「覚え書きはバラバラにされた上で、壁紙の下に貼り付けてあるんですよ」
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