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13.
郎銘館の造りは単純なものだった。
みき達がいる二階は廊下の両端に部屋が六つずつと手洗い所が一つずつ並んでいる。いずれの部屋からもバルコニーに出られるようになっており、さらにバルコニーはぐるりと二階部分を囲んでいる。もっとも部屋の内装はいずれも四人部屋でベッドと床頭台があるだけなので、大して変化のない造りとなっていた。
一階はもう少し複雑で、入口の両開きのドアを開くと大広間が目に入る。大広間を挟んで、向かって左手には二階への階段、診察室、倉庫、調理室、地下室への入口などがあり、一方右手側には職員達の泊まる部屋や職員専用の浴場、そして一番奥廊下の突き当りには院長室が構えてある。
この院長室だけは廊下の片側に造られているのではなく、廊下の突き当りの先にドアがあり廊下をまたぐ形で大きな一つの部屋となっている。
「もし壁紙を剥がすのなら道具がいるわね」
夕食を食べ終わるとあきが早速そう呟いた。
隣のベッドでは夜風があってもまだ暑いのか、いのりが珍しく寝間着の胸元をパタパタとあおいでいる。もちろん無作法に肌を見せるようなことはしない。そういう意味ではとてもいのりらしいともいえる。
「剥がした壁紙はそのままでいいのでしょうか?」
湿度が増しているからなのか、結愛が軽く咳き込みながら言った。
「そもそもどうやって院長室に入るかという問題もありますよ」
みきが言うと、全人が黙り込んでしまった。
階段を使い、職員達の寝室を通り過ぎてから院長室に行くというのは、なかなか無謀なことに思えた。
「そもそも鍵もないですしね」
「いっそ、ゆなさんに頼むというのはどうでしょう?」
「それはだめよ」
いのりが静かな、でも凛とした響きの声を発した。こんな時のいのりの言葉はそこらの大人たちよりもはるかに重みがあったりする。
「ゆなさんはいい方だけど、ここの職員さんなのよ。何かあった時に、彼女に責任を取らせたくはないわ」
「同感」
あきが右手をすっと挙げた。
「ここはわたし達だけで動いた方がいいわ。責任を取るのもわたし達だけ。いいわね?」
いのり、みき、結愛の全員が同時に頷いた。
ただみきとしては、できるだけ早く行動を起こしたいというあせりがあった。戦局がどうなるのか、その後の情勢がどうなるのか全く分からないうえ、最近の結愛を見ていると悪い予感がしてならないのだ。
もっともそれはあきも同じだったようで、すぐに新たな提案を打ち出してきた。
「考えてみたんだけど、窓から降りるというのはどうかしら?」
全員があきの顔を、それから夜風を入れるために開け放たれている交互に見合ってから、互いに顔を見合わせた。
そんなみき達の様子を見て、あきは寝間着が乱れるのも気にせずベッドの上で笑い転げていた。
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