16.

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 あきはみきが寝巻きの下に直にくくりつけてきたへらと糊を確認すると、無言のまま壁を何度か指指した。  取り決めでは壁を押していき、圧の違う場所があったらそこの壁紙を剥がすというものだった。ただ今こうして部屋の大きさを間のあたりにすると、みきは上に残っている二人にも降りてきてもらったほうがいいのではないかという気がしてきた。  部屋の中にあまりものがないせいかもしれない。ベッドと机、ソファ、それに戸棚もあったが入れられている本や置き物の数はあまり多くない。壁紙を調べる身としては大助かりだが、それでも院長なのかとみきは呆れた。そう言えばここに来て以来ろくに顔を見ていなかったことを思い出し、ベッドの上の顔を拝もうとしたところで、あきに肩を叩かれた。  振り向くとすぐ目の前に、あのフランス人形のような顔立ちがあった。その華やかさは暗闇の中でもしっかりと伝わるほどだった。 「私は向こうの壁から、みきはあちらから」  あきは小声でそう言うと、早速壁を押し始めた。  みきは上の二人を呼ぶべきか迷ったが、あきの真剣な顔を見ているうちに、結局自分も壁を押すことにした。  暗闇の中で時計の秒針、それから院長の寝息だけが聴こえる。  沈黙も静寂も苦痛ではなかった。  それどころかみきは自分がかつてないほど全身の神経が鋭敏になっていることに気づき、それはある種の快感となっていた。   「みき!」  暗闇であきのほんの小さな声が聞こえた。  そっと駆け寄ると、あきはドアの脇の壁を指差した。 「ここよ」  みきが壁を触ると、確かに他の壁面の硬さとは違うある種の弾力のようなものが壁紙の下に感じられた。  あきとみきはへらを手にすると、壁紙の端の切れ込みに食い込ませた。  ガシッという鈍い音が思った以上に響き、みきはギョッとしてベッドを見たが人が動く気配はなかった。  あきはといえば、構わずにへらを振るっている。  そして、ついにあきは壁紙の端を持つと、ゆっくりとしかし確実に引っ張り始めた。 「手伝います」  もうここまできては、たとえ気づかれてもいい。  みきはあきと一緒に壁紙の端も持つと、一気に引き剥がした。 「……ついに見つけたわ」  興奮のためなのか、あきの呼吸がほんの少し荒くなっていた。  壁紙が剥がされた目の前の壁には、格子状の隙間を残して紙の薄い束がいくつも貼り付けられていた。ちょうどそれは障子のように。
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