5.

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 バルコニーに出ると、全員で長椅子に腰掛けた。外気に触れることはここでの重要な日課だった。このあたりの空気は澄んでいてきれいな上に、湿気もないので結核患者には具合がいい。  全員で四つ並んだ長椅子を見つけ横になっていると、同じように部屋から出てきた他の患者達に取られないうちに横になった。 「そういえば、昨日言っていたスクラップのことなんだけどさ……」  あきが前を見たまま語り出した。  バルコニーの向こうには大きな森が、そのさらに向こうには山が見える。雄大だが、みきにはどこか絵画の中の世界のように見えてならなかった。 「あれ、本当につくってみようかと思ってるんだ」  あきの言葉にいのりが小首を傾げた。 「何かおもしろい記事でもあったかしら?」  あきはいのりのほうを向くと少し早口で言った。 「新聞記事じゃなくて、私達のことなのよ」 「どういうこと?」 「なんて言えばいいのかしら? しいて言うなら日記みたいなものかな? でもそれともちょっと違うのよ」  そこまで言って、あきはクシャクシャと髪をかいた。言いたい言葉が出てこないもどかしさが伝わってくる。 「歴史書」  ふいに結愛がそう言った。 「そ、そうよ、それ。うん。歴史の書よ。私達がこの郎銘館で生きた証を残したいのよ」 「生きた証?」  みきは思わず鼻で笑ってしまった。 「死んだ証なら分かりますけど」 「こらこら。そういうことは言わないの」  いのりがいまいち納得のいかない様子で問い尋ねる。 「でもどうして、突然そんなことを?」  あきは視線をもう一度森に向けた。  つられたように、いのり、結愛、みきも森のほうを見る。  どこかで鳥の鳴き声がした。空気が澄んでいるためか、よく響くのだ。一方でこの澄んだ空気は、結核患者のこもった咳も、関節の痛みにむせぶ声も吸い込んでいくようだった。 「私ね、意外と好きなのよ。この郎銘館も、この自然も。ここに来れたこと、みんなと出会えたこと、感謝してるくらい。ああ、もちろん病気のことは抜きにしてよ」 「あき……」 「だからその証をどこかに刻みつけておきたいのよ」  みきはあきが泣き出すような気がした。その声はいつもと同じく、いやそれ以上に朗らかだったが、なぜかそんな気がした。  だがあきは泣かなかった。  にっこりと三人に笑いかけた。 「だから協力してほしいのよ」 「……そうね。いいわ」 「まあ、暇つぶしにはね」 「言うわねぇ」  いのりとみきがとりあえず賛同したのを確認すると、あきは無邪気な顔で結愛に聞いた。 「結愛も賛成してくれるでしょ? 」  結愛は真正面からあきの顔を見つめ返すと、ゆっくりとただしはっきりと言った。 「ねえ、あきさん。私、知ってるの。この郎銘館の始まりから書かれた歴史書について」
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