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プロローグ
東北のS県の山間のさらに奥まったところ、ふもとの村から大分離れ周りを小川のせせらぎと渓谷に囲まれたところに、風景とは不釣り合いに大きな洋館が佇んでいる。真っ白な壁をした二階建ての建物で、カステラのような、あるいは直方体に切られたパウンドケーキのような形だった。
決して豪奢なつくりではないが、よく手入れされているので、少しもみすぼらしい感じはない。
現在はホテルとして運営されているが、ここの魅力は温泉やスキー場といった類のものではない。
ここに来る客達の目的は本だった。
このホテルには大きな図書室があり、そこには国内外の様々な本があった。ミステリー、恋愛、歴史、自然科学など、あらゆる分野があり、その中には世界的にみても希少な初版本や、豪華な装丁のものもあった。
ここに来る人達はそのような本に目を通し、触れることを何よりも楽しみとしていた。彼らのほとんどは長年の常連であり、時々新しい同好の士を連れてくることはあったが、このホテルの図書室が本当に本を愛する人達だけの密やかな楽しみの場、そして交友の場となることを喜びとしていた。
ただそんな彼らも、なぜこんな山間のホテルに、このような貴重な本がたくさんあるのかまでは知らなかった。
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