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3「今日もいい幽霊退治日和だね」
それからというものの、茜くんのアタックはすさまじかった。
「おはよう天内くん」
「わっ、お、おはよう……」
急にぼくのクラスに来てニコニコと挨拶をする茜くん。
周りの子たちが「茜様だ……!」「今日もカッコいい……!」「茜様が転校生と話を……⁉︎」ってざわめき出す。
ていうか、茜くん、「茜様」なんて呼ばれてるの⁉︎
「今日もいい幽霊退治日和だね」
「どういう状態⁉︎」
散歩日和だね、みたいなノリで言われても。
幽霊退治にいい日和も悪い日和もあるもんか。
「良かったら放課後、話だけでも」
「お断りします」
「やあ、お昼休みだね天内くん」
「ま、また出た⁉︎」
「出た、なんて。オレを幽霊みたいな言い方しないでくれよ」
ハハハと笑う茜くんは爽やかだけど。
ぼくの中では今、茜くんは幽霊と並んで厄介な存在だ。
クラスの子たちもまたぼくたちを見てヒソヒソ……。
「また茜様を見られるなんてラッキー!」
「やば、今日はツイてるかも」
「ご利益ありそう……!」
……茜くんって一応、ただの一生徒、だよね?
それこそ座敷童みたいな扱いになってない?
だけど慣れてるのか、茜くんはニコニコと気にしていない素振り。
「聞いてくれ天内くん。オレはもう君なしでは考えられないんだ」
「言い方! 誤解を招くから!」
「今後のオレたちの人生設計について話し合おう」
「だから言い方!」
わざとなのかな⁉︎
「天内くん、本日はお日柄も良く。どうかな、幽霊ウォッチングをしたくはないかい?」
「あるわけないよ!」
「この近くに裏山があるだろう? 近々工事が入って立入禁止になってしまうんだ。その前に散歩がてら……」
「山なんて何がいるかわかったものじゃないじゃないか!」
「ハイキングみたいで良いかなと思ったのだけど……」
そりゃあ茜くんの背後霊にとっては絶好の食事場かもしれないけど!
「天内くん」
「お断りします!」
……そんな感じでぼくと茜くんの攻防は平行線のまま続いていた。
茜くんは神出鬼没で、いつ、どこに出てくるかわからない。そして、とにかく目立つ。茜くんといるだけでとても目立つ。ぼくはすっかり「茜様に気に入られている謎の転校生」というウワサの人になってしまった。このままじゃまずい。
ぼくは、幽霊にも、人間にも深く関わらないって決めたのに……。
「天内くん」
「お断りします……!」
出会ってから二週間。
反射的に答えたぼくに、いつもだったら「また来るよ」と颯爽と去って行く茜くんは、今日は困ったように微笑んだ。
「頑なだね。参ったな。わかった、もうゴースト・ギバーに入れとは言わないから」
「え……?」
「ただ、オレも困っていてね。助けると思って、一つだけお願いを聞いてくれないか」
ぼくは言葉に詰まって押し黙る。
そんな風に頼まれると、ちょっと、弱い。だって茜くんの声音は本当に困っているみたいだ。
「……お願いって、何?」
「学校内にあるはずの【封印】を探してほしいんだ」
「封印?」
うなずいた茜くんは一枚のメモ用紙を取り出した。
そこには三角形を重ね合わせたような星形のマークが書いてある。確か六芒星、っていうやつだ。マンガで見た程度の知識だけど。
「これと同じマークがどこかにあるはずなんだ。オレたちも探しているんだけどなかなか見つからなくて……一ヶ月以内に見つけたいのに人手が足りなくてね」
「何を封印しているの?」
「悪霊だよ」
「あ、悪霊!?」
「この学校にいた強い悪霊たちでね。先輩がまとめて封印したんだが、周期的にその封印が解けそうなんだ。だから見つけて封印し直したいんだけど……あいにく先輩と連絡が取れなくて場所がわからない。それでオレたちが探しているんだ」
どうかな、と茜くんが眉を下げる。
ぼくは開いた口がふさがらない。とんでもない話だ。本当なら断ってしまいたい。
でも……。
悪霊の封印が解けたら、学校のみんなはもちろん、ぼくだって困るわけで……。
この学校に悪霊がたくさん出てくるなんて、考えたくもない。
「……わかった」
ぼくがうなずくと、茜くんは表情を明るくした。ぎゅ、と両手を握ってくる。
「ありがとう、天内くん」
「はは……」
どのみち、これ以上目立たないためには茜くんのお願いを聞くしかなさそうだし。怖い悪霊が出てくるのは絶対にイヤだし。
できるだけ早く見つけよう。
ついでに霊能力に関してはポンコツっぽさをアピールして、茜くんには思い違いだったとわかってもらおう。
うん。そうだ。それがいい。何だかできる気がしてきたぞ。
よし、がんばろう……!
……がんばれる、よね?
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